圧倒的な既視感で「女子生徒が誰なのか」まで、
すっかり分かってしまった俺は浅い溜息を漏らす。
ふぅ、と車内で息をゆっくりと吐く。
_____停車中のフロントガラスに映った光景から俺の瞳に飛び込んだ少女は、
紛うことなきあなたちゃんだった。
◇
『この前の他校の子がうっかり夜のお店の方に制服で歩いちゃったのが原因で、最近先生達がパトロールしてるらしいよ?
だから、もしあの辺りを歩くならちょっと気をつけた方が良いかも。』
と、今日、学校でフミカが忠告してくれた言葉を思い出す。
私は周囲に同級生や知り合いが居ない事を確認してから、駅横の大通りから外れた道へと入った。
携帯内の地図アプリを開き、待ち合わせ場所の住所と方向を確認しながら歩みを進める。
夜の店はまだ開店準備をしているところが多いらしく、
この前の様に私に変に絡んでくるような人も居ないらしい。
かなり奥まで来たところで、
少し怪しい小さなビルの前で立つ男の人を見つける。
地図アプリの検索結果の上部に載っている外観の写真と目の前のビルの外観とを比べ、確認をする。
ふぅ、と無事に待ち合わせ場所に着いた安堵の息を吐くと、静かに携帯を制服のポケットに仕舞った。
そして、今度はビル前に立つ男の人の元へと近づく。
『スタ、スタ、スタ…』
ソフトハットを頭に乗せ、首にはお洒落なスカーフを巻いた彼は陽気に喋りながら、
今度は後ろの小さなビルに指を指す。
にっこり笑みを浮かべた彼が、
ゆったりとした歩調でビルの自動ドアを通りながら話を続ける。
多少の犠牲はあるとは言え、
前みたいに与えられた事をこなせば、
その辺りでアルバイトをして稼ぐよりかは楽に高収入を得られる。
所詮、近辺でのアルバイトなんて一般高校生の時給だ。
いくら都会であっても、たかが知れている。
(フミカと修学旅行に行く為だし。今更、色んな意味で引き返せるわけないし。)
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。