第65話

天野 カエデside/誰が為の傍らの話①
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2021/05/16 17:00

圧倒的な既視感で「女子生徒が誰なのか」まで、

すっかり分かってしまった俺は浅い溜息を漏らす。
小芝 チハル
か、カエデ?どうしたの?
天野 カエデ
ん?あー…
小芝 チハル
何か見つけたの?
なんか様子が変だけど…
天野 カエデ
ごめん、チハル。
さっきのなかった事にして。
小芝 チハル
え?
天野 カエデ
やっぱり急用出来ちゃった。
小芝 チハル
急用?
天野 カエデ
そ。

ふぅ、と車内で息をゆっくりと吐く。
天野 カエデ
俺、今から捕まえたい子が出来ちゃったから。





_____停車中のフロントガラスに映った光景から俺の瞳に飛び込んだ少女は、


紛うことなきあなたちゃんだった。













『この前の他校の子がうっかり夜のお店の方に制服で歩いちゃったのが原因で、最近先生達がパトロールしてるらしいよ?

だから、もしあの辺りを歩くならちょっと気をつけた方が良いかも。』



と、今日、学校でフミカが忠告してくれた言葉を思い出す。


私は周囲に同級生や知り合いが居ない事を確認してから、駅横の大通りから外れた道へと入った。

携帯内の地図アプリを開き、待ち合わせ場所の住所と方向を確認しながら歩みを進める。


夜の店はまだ開店準備をしているところが多いらしく、

この前の様に私に変に絡んでくるような人も居ないらしい。



かなり奥まで来たところで、

少し怪しい小さなビルの前で立つ男の人を見つける。


あなた

待ち合わせ場所ってここであってるよね?


地図アプリの検索結果の上部に載っている外観の写真と目の前のビルの外観とを比べ、確認をする。
あなた

よし、合ってる。



ふぅ、と無事に待ち合わせ場所に着いた安堵の息を吐くと、静かに携帯を制服のポケットに仕舞った。

そして、今度はビル前に立つ男の人の元へと近づく。


『スタ、スタ、スタ…』

あなた

あの…こんにちは。

あ、ああ!こんにちは!
あなたちゃん…で合ってるよね?
あなた

はい、合ってます。

あれ、なんか雰囲気違くない?
更に大人っぽくなった?
あなた

ど、どうですかね。全然周りから言われないので、自分では何とも…

あはは、そういうところ、あなたちゃん変わってないよねぇ!安心したよ!

ソフトハットを頭に乗せ、首にはお洒落なスカーフを巻いた彼は陽気に喋りながら、

今度は後ろの小さなビルに指を指す。
場所が場所だし、ささっと中入ろうか。詰まる話はゆっくり中でしようよ。

にっこり笑みを浮かべた彼が、

ゆったりとした歩調でビルの自動ドアを通りながら話を続ける。
あなたちゃんがこのまま付き合ってくれたら、僕もあなたちゃんに悪くない報酬をあげられるんだけど。
あなた


多少の犠牲はあるとは言え、

前みたいに与えられた事をこなせば、

その辺りでアルバイトをして稼ぐよりかは楽に高収入を得られる。
あなた


所詮、近辺でのアルバイトなんて一般高校生の時給だ。

いくら都会であっても、たかが知れている。


(フミカと修学旅行に行く為だし。今更、色んな意味で引き返せるわけないし。)



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