桧原は私の後ろに広がる光景を見て、目だけで苦しそうな表情を浮かべた。
(家はやばい!桧原には住み込みでバイトするなんて言ってないし、
ましてや男の人の家だって分かったら大分まずい!)
桧原とは恐ろしい程の腐れ縁で、
幼稚園の2年間、小学校の6年間、中学校の3年間、そして高校1年間、
合計12年間を桧原と同クラスで過ごしている。
桧原は歩道脇に経っているガードレールからもたれるのを止めると、
私の前をすたすたと歩き出した。
(うわぁ…また身長伸びてる…)
ほぼ毎日顔を合わす義務教育から一転、
高校に入って文理選択も違うし、そうなると授業も違う。
自然と話す機会も少なくなっていった。
唯一、2人が言葉を交わす時間といえば、
学校やバイトで遅くなった時の行き帰りぐらいだ。
だからか、余計に桧原の成長が分かりやすくなった気がする。
たわいのない会話をしながら、遅れないように歩幅を合わせる。
(桧原には凄い迷惑かけてるなぁ…なんせ、嘘までついてもらっちゃったし…)
『大丈夫だって。炊事洗濯は1人でこなせるし、桧原も同じ高校で、一人暮らしするって言ってたから。』
(今思い返すととんでもない嘘ついてるなぁ、私!おい!!)
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。