『カチッ』
ドヤイヤーのスイッチを切り、もう一度天野くんの髪をブラシで整える。
(うん、いつものノーマル天野くんになった。)
天野くんは自分の髪の端を少しいじると、鏡の前で満足気に笑った。
私はせっせとドライヤーやブラシ等を元の位置に戻すと、「ふぅ…」と吐息を零した。
(そろそろ自分の用意もしなきゃな…)
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天野くんは毎朝、私を玄関まで来させては『お見送り』ではなく、
『五つのルール確認』をする。
(フミカにこのバイトしてる事、言っちゃってるんだけどね…)
" 天野 カエデ " という名前は伏せているものの、
天野くんには悪いが、フミカがしつこく例のバイトを勧めてくるので、
断る為にバイト内容だけ説明させて貰った。
(『他言無用』って、どこまでなんだろう…?
このバイトをしてるっていうのが駄目なの?
それとも、天野くん宅でやってるっていうのが駄目?
いや、同居の事が駄目なのか…?)
ここ数日間、ぐるりぐるりと疑問を脳内で巡らせては答えは分からぬまま、
いつも天野くんを送り出して終わってしまう。
(今、聞いておくべきか。)
(今の『色んな子』って、絶対女の子だ…)
天野くんは口角を少し上げると、
またあの見透かした様な目で私に言う。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。