第17話

#とんでもない嘘の話 ③
1,218
2020/02/04 19:00
『カチッ』

ドヤイヤーのスイッチを切り、もう一度天野くんの髪をブラシで整える。


(うん、いつものノーマル天野くんになった。)
あなた

終わりましたよ、天野くん。

天野 カエデ
おぉ、ありがとね、あなたちゃん。
天野くんは自分の髪の端を少しいじると、鏡の前で満足気に笑った。

私はせっせとドライヤーやブラシ等を元の位置に戻すと、「ふぅ…」と吐息を零した。


(そろそろ自分の用意もしなきゃな…)









天野くんは毎朝、私を玄関まで来させては『お見送り』ではなく、

『五つのルール確認』をする。
天野 カエデ
その一、
あなた

『気を使わず、それぞれの生活を送ること』。

天野 カエデ
出来てる?
あなた

まぁ…出来てると思います。

天野 カエデ
この前俺が言ったみたいに、出来る時に羽伸ばしなよ?
あなた

分かってます。

天野 カエデ
じゃ、その二、
あなた

『他言無用』。

天野 カエデ
これは出来てて貰わなきゃ困るんだけど…出来てるよね?
あなた

うん…出来てます。


(フミカにこのバイトしてる事、言っちゃってるんだけどね…)


" 天野 カエデ " という名前は伏せているものの、

天野くんには悪いが、フミカがしつこく例のバイトを勧めてくるので、

断る為にバイト内容だけ説明させて貰った。



(『他言無用』って、どこまでなんだろう…?

このバイトをしてるっていうのが駄目なの?

それとも、天野くん宅でやってるっていうのが駄目?

いや、同居の事が駄目なのか…?)



ここ数日間、ぐるりぐるりと疑問を脳内で巡らせては答えは分からぬまま、

いつも天野くんを送り出して終わってしまう。


(今、聞いておくべきか。)
あなた

あの、天野くん、

天野 カエデ
ん?
あなた

『他言無用』って何が駄目なんですか?

天野 カエデ
『何が駄目』?
あなた

はい。私達の同居の事が駄目なんですか?

天野 カエデ
なんか、同居ってエロく聞こえるの俺だけ?
あなた

俺だけです。変な共感求めないで下さい。

天野 カエデ
ん〜、あなたちゃんは今日も通常運転だねぇ。冷たいっ。
あなた

はいはい。それで、さっきの答えは?

天野 カエデ
んー…
あなた

天野 カエデ
全部。
あなた

…はっ?!

天野 カエデ
全部。
あなた

なっ、

天野 カエデ
俺、このルール最初に作った時に言ったけど、1つでも破ったらあなたちゃんとの契約は解消ね?
あなた

いや、解消とか言われてないんですけど?!

天野 カエデ
あれ、そーだっけ? 色んな子と話すからさ、誰に何話したか覚えてないんだな、多分。

(今の『色んな子』って、絶対女の子だ…)
天野 カエデ
それより、急に焦ってない?大丈夫?
あなた

だ、大丈夫です、っ、

天野 カエデ
そ?
あなた

…、、

天野 カエデ
もしかして、
天野くんは口角を少し上げると、

またあの見透かした様な目で私に言う。
天野 カエデ
『他言無用』、破っちゃった?

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