(…は?)
私は一瞬、素直にきょとんとしてしまう。
天野君の今の表情は、私を馬鹿にしてるように見えた。
当惑の眉をひそめつつも、いつもの様にクスクスと笑っている。
『パシッ』
天野くんにいきなり右手首を掴まれた。
『グイッ………………ドサッ』
突然引き込まれた手首。
足の感覚がないまま天野くんの下敷きになる。
声にならない声が口から零れていく。
私を押し倒した天野くんの影が私に重なって、
自ら直した天野くんの髪からふわっと香水のいい匂いがした。
『ドッドッドッドッ…』
心臓が煩い、身体が熱い。
天野くんに掴まれた腕から伝染するように熱を帯びていく。
(痛い…)
(痛い、痛い…)
『ビクッ』
視界のど真ん中を独占する天野くんを見上げながら叫ぶと、
天野くんは少し驚いて目を丸くした。
天野くんは「ははは」と笑い声を漏らしてから、
暫くそのままじっと私を見つめていた。
(頭ぶつけたし、背中痛いし、足痺れてるし…最悪、)
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!