第8話

♯雨の中の話 ①
1,393
2019/12/20 00:47
秋晴 フミカ
《で、新しいクライアントさんはどうなの〜?》
あなた

んー?…まぁ、大きいトラブルとかはまだ無いからさ、全然やっていけそうな感じ。

天野くんと暮らし始めて、早くも数日が過ぎた。

少女漫画やドラマの様な展開があってもいいものの、一切起こる気配はなく、淡々と毎日が過ぎていく。


朝は天野くんを起こし、朝食を作る。

天野くんは完食すると自分の部屋に戻り、
着替えてはすぐに車のキーを持って、家を出て行く。

その後、私は天野くんに見つからないうちに春休み中の課題を済ませ、仕事である家事をこなしていく。



そう、こんな淡くもなければ酸いも無い時間の流れに身を任せている状態だ。
秋晴 フミカ
《まぁ、なら、良かったじゃんっ!正直、新しいクライアントさんが男の人だったり、》
『ギクッ』
秋晴 フミカ
《乱暴する様な人だったら、》
『ギクゥッッ』
秋晴 フミカ
《すぐに辞めてもらお〜って思ってたからさぁ。》
『ガタンッ』

どれも当てはまるように思い出され、つい手元の調理器具を床に落としてしまう。


天野くんはれっきとした男の人だ。


そして、乱暴はされなかったけれど、初対面の女性に平気で壁ドンをする。



私とは真逆の世界の人間。
秋晴 フミカ
《え、ちょっと、しーちゃん?何か落とした?大丈夫??》
あなた

だ、大丈夫。ちょっと落としちゃっただけ。

秋晴 フミカ
《割れた?》
あなた

割れてないよ。

私はすぐさま落とした調理器具を拾うと、私の背の方にあるカウンター席に振り向く。

私の携帯に『通話中』というボタンと『秋晴 フミカ』の字が、画面に浮かんだり消えたりしている。
あなた

でもさ、

秋晴 フミカ
《ん〜?》
あなた

私がこのバイト辞めたら、絶対修学旅行は諦めないと。費用、絶対貯め終わらないし。

秋晴 フミカ
《あ〜、それはいいの。フミカに任せておいてくれれば良いから〜。》
《ふふふふ〜ん♪》と、ご機嫌な鼻歌が携帯のスピーカーから聞こえる。
あなた

フミカに任せるって怖いんだけど。

秋晴 フミカ
《いやいや、そんなに?私はまたこっちの仕事手伝って貰お〜って思ってただけだから。》
(やっぱり。)


案の定、フミカの仕事を手伝うというものだった。

別に構いはしなかったが、フミカの仕事は私には正直合っていなかった。
あなた

だと思った。でも、残念だけど、もうやらないって決めたから。

秋晴 フミカ
《なんで?そんなに嫌?》
あなた

嫌というか…私、別にそういうタイプじゃないし。

秋晴 フミカ
《こっちの方がすぐにお金も貯まるのに…》

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