高校2年生にもなって、直進続きの通りで迷子とか恥ずかしすぎる。
(あ、あまりにも情けなさすぎない?)
思えば、幼い頃からの腐れ縁の桧原からは毎度「無闇矢鱈に動くな」と注意されていた。
そして、それは今も。
『ドンッ、!』
後ろから迫ってきた何かにぶつかり、思わず前へと転びそうになる。
すぐに振り返ろうとした瞬間、
私が探している人とは違い、キツい香水の匂いがした。
顔を見上げた私と目が合うなり、急に少し前屈みになったその男は私に顔を近づける。
通りの端っこの方で、成人男性と一対一。
更に相手は私が高校生である事に目を付けている。
何かしら嫌な予感はしていた。
キツネのような細い目をにっこり笑わせ、黒いマスクを付けたチャラチャラした若い男。
ぷんと匂う香水は彼に纏わりつき、
その空気を吸う私の鼻にもこびりついてしまいそうだ。
天野くんはチャラチャラしているのに、もっと全体的に上品だ。
それに香水はいつもほんのりと甘い匂いがする。
(天野くんはやっぱりパリピの中でもトップクラスさんって訳なのね。)
黙って冷静を装っているが、内心はどうしたら良いか分からない。
変に刺激するのも怖いし、愛想笑いで誤魔化すのはもっと怖い。
フミカに集るナンパ達は何度も撃退してきたが、自分に近づいた男を撃退した事なんて一度も無い。
グイッと手首を掴まれた瞬間、傍の路地へと引き込まれる。
人が一人も居ない路地の薄暗く狭い闇の中へと、あっという間に指先から全て呑まれた。
『タッタッタッ』
振り解けない私をどんどん奥へと連れて行く。
『バッ、!』
いきなり身体が後ろへと引き剥がされたかと思った刹那、
ふわりと仄かな甘い匂いがした。
私がよく知っている甘い匂い。
天野くんは私の肩に手を置いて、にっこりと若い男に笑いかける。
ヒラヒラと軽く手を振りながら、天野くんは続けた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。