第10話

#雨の中の話 ③
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2019/12/24 14:35
天野 カエデ
バイト?
天野くんは携帯のキーボードを叩きながら、「ん〜…」と無気力な声を漏らす。
天野 カエデ
してないよ。出来ないし。
あなた

『出来ない』?大学側がそういう規定を設けてるって事ですか?

天野 カエデ
ん?あー、ううん、忙しいから。

(バイトしてないんだ…大学生なら結構な割合でしてるって聞いたんだけどなぁ…)
天野 カエデ
何?『大学生なら普通、するもんじゃないの?』って?
『ギクッ』
あなた

いえ、別にそうは

天野 カエデ
いい、いい。普通はしてる奴の方が多いし。まぁ、全員が全員してるって偏見は良くないねぇ。
あなた

あ、そうでしたか。それはすみません(イラッ)。

私は営業用の笑顔が絶えてしまいそうなのを、珈琲の注がれたカップを口元に持って来て隠す。
天野 カエデ
あなたちゃんの周りは?
あなた

周りですか?

天野 カエデ
皆、バイトしてるの?
あなた

まぁ…そうですね…

クラスでも学校終わりにバイトしてる子は多い。
特に飲食店は。
あなた

多いですよ。飲食店が圧倒的ですけど。

天野 カエデ
へぇ…
天野くんは自分が聞いてきたくせに、適当に相槌を打つ。
天野 カエデ
その中でもしてない子もいるでしょ?
あなた

まぁ…そうですね…

確かに、幼馴染・桧原 カズオミはバイトをしていない。


私みたいに一人暮らしもしておらず、かなり遠いが自宅から高校に通っている。



私が一人暮らしをする事をお母さん達に許してもらう為、口裏を合わせて、

今は桧原も一人暮らしをしている事になっている。


(お母さんには悪いけどね…)


バレた後に慌てて電話を掛けてくるお母さんの様子が目に浮かぶ。
天野 カエデ
ほらね。(ニコッ)
あなた

そうですね。

私はそれだけを返すと、端にカーテンが追いやられた大きな窓に視線をやる。


(今日は天気も良いし、クリーニングに制服出しに行くか…)


視線を目の前の天野くんに戻しても、天野くんは未だ携帯をいじっている。
あなた

サークルは入ってるんですか?

天野 カエデ
んー?何何〜?今日のあなたちゃんは積極的だね?
あなた

別にそうではないですけ

天野 カエデ
良いよ、良いよ。俺に興味津々なあなたちゃんも悪くないし?

(人の話、聞けよ…!)


天野くんは携帯をテーブルの上に置き、手を合わせると「頂きます。」と呟く様に言った。
天野 カエデ
そっかぁ。とうとう俺に興味持ってくれたのか…でも、残念。俺の事は好きにならないでね?
あなた

興味があるかどうかは別として、天野くんのような人はタイプじゃないので御心配無く(ニコッ)。

天野 カエデ
はーい。相変わらず冷たいねぇ。
天野くんはおかずを口に運んだ後、私に冷蔵庫の中のバターを要求した。


『ガチャンッ』

冷蔵庫の中の瓶類が揺れて、互いにぶつかる音が聞こえた。

そして、私にはこの冷蔵庫を開ける度に頭を抱えている問題がある。
あなた

あの、天野くん?

天野 カエデ
んー?
あなた

今度、私と買い物に付き合ってくれませんか?

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