町田の言う通り、ぼんやりと足を進め続けていると、いつの間にか校門を越えていた。
左に曲がり、歩道を2人で真っ直ぐに進む。
ピタリと自然に止まった俺の足。
街路樹が風に吹かれてザワザワと騒いでいるのを傍らに、
俺は微笑を漏らした。
俺の笑みから既に察しがついているのか、
町田は眉間に皺を寄せて応えた。
学校内ではあまり顔を合わせないように注意を払ってきたが、
今回の一件はそうは行かせてくれないらしい。
教員用駐車場を前にして彼と話をしていると、
突然後ろから声が掛かった。
丁度、俺の車の前で話をしていたため、
艶々としたワインレッドの塗装に俺と町田以外の誰かが後方に立っているのが反射して見える。
先に振り返って反応した彼の顔と、
声を掛けた主から一度俺に視線を移したことから、声の主が誰なのか確信した。
俺もすぐに振り返ると、
そこには上品なクリームカラーのトップスに
黒いスラックスパンツを合わせた、
少し小柄な女性が立っていた。
当時の面影とは少々離れていたが、
柔らかいブラウンのミディアムヘアーは変わっていなかった。
俺の隣の彼に会釈をすると、今度は俺に顔を向けた。
俺に対する「久しぶり」という台詞から、
どうやら目の前の彼女には俺と面識がある事実を隠す気はないらしい。
(必死で隠してくれる方が楽だったのになぁ。)
ニッコリと柔らかい笑みを作る彼女に、俺も笑顔で返した。
そう、この女性が俺の元カノ、
_____小芝 チハルだ。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。