第62話

天野 カエデside
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2021/03/03 17:00

町田の言う通り、ぼんやりと足を進め続けていると、いつの間にか校門を越えていた。

左に曲がり、歩道を2人で真っ直ぐに進む。
天野 カエデ
で、今日のパトロールは俺達だけ?
町田 タカユキ
いいや。もう1人居る。
天野 カエデ
誰?
町田 タカユキ
小芝先生、だったと思う。
天野 カエデ
え、小芝?

ピタリと自然に止まった俺の足。
町田 タカユキ
うん。てか、いきなり呼び捨てとか失礼だろ。それとも知り合いか?

街路樹が風に吹かれてザワザワと騒いでいるのを傍らに、

俺は微笑を漏らした。
天野 カエデ
あれ、お前に話してなかったっけ?
町田 タカユキ
…一応聞いておくけど、何が?

俺の笑みから既に察しがついているのか、

町田は眉間に皺を寄せて応えた。
天野 カエデ
俺の元カノがこの学校で働いてるって話。
町田 タカユキ
…残念だけど、初耳。

学校内ではあまり顔を合わせないように注意を払ってきたが、

今回の一件はそうは行かせてくれないらしい。
天野 カエデ
ほんっと、世間って狭いよねぇ。
町田 タカユキ
いや、こんなミラクルあると思うの?
どう考えても、色んな女性に手を出し過ぎた天野の所為でしょ。
天野 カエデ
そんなに出してないって。
町田 タカユキ
今更何の嘘だよ。

教員用駐車場を前にして彼と話をしていると、




すみません。
町田先生…と天野先生ですよね?



突然後ろから声が掛かった。


天野 カエデ
丁度、俺の車の前で話をしていたため、

艶々としたワインレッドの塗装に俺と町田以外の誰かが後方に立っているのが反射して見える。
町田 タカユキ
はい。

先に振り返って反応した彼の顔と、

声を掛けた主から一度俺に視線を移したことから、声の主が誰なのか確信した。





俺もすぐに振り返ると、


そこには上品なクリームカラーのトップスに

黒いスラックスパンツを合わせた、


少し小柄な女性が立っていた。
ご挨拶がまだでしたよね。
小芝こしば チハルです。
町田 タカユキ
どうも。町田 タカユキです。

当時の面影とは少々離れていたが、

柔らかいブラウンのミディアムヘアーは変わっていなかった。


俺の隣の彼に会釈をすると、今度は俺に顔を向けた。
小芝 チハル
久しぶり。
今日はよろしくお願いしますね、
天野 カエデ
小芝 チハル
天野  " 先生 " 。

俺に対する「久しぶり」という台詞から、

どうやら目の前の彼女には俺と面識がある事実を隠す気はないらしい。


(必死で隠してくれる方が楽だったのになぁ。)


ニッコリと柔らかい笑みを作る彼女に、俺も笑顔で返した。
天野 カエデ
うん、よろしく。

そう、この女性が俺の元カノ、




_____小芝 チハルだ。


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