第64話

天野 カエデside
545
2021/04/18 17:00
小芝 チハル
なら、
天野 カエデ
でも、ごめん。
とりま、今は要らないや。
小芝 チハル
え…
天野 カエデ
そもそも家に入れられないし。
小芝 チハル
そう、なんだ。…もしかして、彼女が居るからとか?
天野 カエデ
いーや? 俺、今フリーだけど。
小芝 チハル
じゃ、なんで
天野 カエデ
んーと、ご飯あるから?
小芝 チハル
ご飯?
天野 カエデ
うん。いつも作ってるんだよねぇ、


(俺じゃなくて、あなたちゃんが、だけど。)

小芝 チハル
…そっか。
天野 カエデ
だから、ご飯作りにってのはいいかな〜って。
小芝 チハル

黙って視線を足元へと引き下げた元カノを横目に入れる。

彼女は助手席に座ったまま、悲しそうに目を伏せていた。
天野 カエデ




(ま、………いっか。)




最近女の子と絡めてなかったし。

仕事多かったし。

息抜きなんて全然出来てなかったし。


気晴らしに少しぐらい遊んだって罰は当たんないでしょ。


中間テストの試験問題作成も、体育祭の会議も無事終えたんだし、良いよね?



天野 カエデ
俺の家じゃなくて良いなら、この後もチハルに付き合うけど。
小芝 チハル

ニヤリと口の端を少し上げて、目元を緩めて微笑んでみせると、元カノの両目は確かに見開いた。


(後であなたちゃんに連絡入れとかないと。「今晩はご飯要らない〜」って。)

天野 カエデ
で、どうす


ふと、頬を微かに赤らめた元カノから前方の大通りへと視線を戻した時だった。




俺の問い掛けは口にしている最中にも関わらず、

突然電話が線ごと切れたかのようにぶつりと途切れた。






天野 カエデ
_____は?





息が止まった。






『駐輪禁止区域の自転車放置の苦情と、繁華街を制服のままで彷徨いていた類の苦情がやけに多いみたいですもんね〜。』


『この辺りは都心に比較的近いですし、繁華街の方向に流れていくのは想定済みですけど。』


『流石に寄り道するにしても制服はまずいだろ、って話です。』


『ははは。特に奥のホテル街まで行っちゃうと、何考えてるか分からない輩が多いですから。』




この辺りは繁華街に近く、治安もそれ程良いとは言えない。

少し人通りの多い駅横の道から外れれば、
あっという間に夜の店が連なるエリアに足を踏み入れることになる。

職員会議でも、他校の生徒が制服のまま立ち寄ったという問題に過敏に反応していた。



(あれ、どう見ても俺んとこの制服だよね?)


黒縁のメガネを少し押し上げ、レンズ越しにギュッと目を凝らす。

キョロキョロと辺りを警戒しながら、両腕に抱えたスクールバッグを更に深く抱いたのは間違いなくうちの女子生徒だった。



そして彼女は何の躊躇いもなく道路を渡り、

少し暗いビル街へと消えて行った。

天野 カエデ
 ねぇ、あの動き覚えがあり過ぎて怖いんだけど。嘘でしょ?

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