天野くんは私の震える肩をぐっと掴んで抑えようとするが、あまりの冷たさに声を上げた。
天野くんは一度リュックをその場で下ろすと、
着ていたジャケットを脱ぎ、
私をそのジャケットで包み込んだ。
天野くんの柔軟剤とは違う、甘い匂いがした。
冷たくなった鼻先が雨の匂いに混じった天野くんの甘い匂いを感じ取ると、
自然と心が緩んだ。
天野くんは私がジャケットに一瞬で鼻を近づけるのを見て、少し眉間にシワを寄せた。
『ガチャンッ』
エントランスゲートのロックが解除される音がして、
天野くんは私の荷物を手に取るとそそくさと中へと入る。
私も掛けてもらったジャケットを落とさない様に、慌てて後ろをついていく。
エレベーターの壁に貼ってある大きな1枚鏡に私達の姿が映る。
天野くんは鏡に映る私をチラリと見て聞いてきた。
近辺の入り組んだ住宅街を迷い、地図アプリを頼りに店を探し歩いたせいで遅くなったのもあるが、
出来るだけ出費を最低限に抑える為、様々な店を回り、
天野くんが使っている消耗品や食品と同じものを探していた。
鏡越しにニヤッと笑う天野くんの姿を目に入れてから、私はふうっと息を吐いた。
天野くんは鏡越しに私と目をぱちくりさせた後、クスッと笑って「あぁ、そう?」と返した。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。