第13話

#雨の中の話 ⑥
1,247
2020/01/07 14:41
天野くんは私の震える肩をぐっと掴んで抑えようとするが、あまりの冷たさに声を上げた。
天野 カエデ
うわっ、冷た!よく外で待てたよね。何処か店にでも入ってたら良かったのに。
あなた

周りに何があるか、とか、まだ、よく、分か、んないし…

天野 カエデ
ま、これ着ておきなよ。
天野くんは一度リュックをその場で下ろすと、

着ていたジャケットを脱ぎ、

私をそのジャケットで包み込んだ。
あなた

っ…

天野くんの柔軟剤とは違う、甘い匂いがした。

冷たくなった鼻先が雨の匂いに混じった天野くんの甘い匂いを感じ取ると、

自然と心が緩んだ。


天野くんは私がジャケットに一瞬で鼻を近づけるのを見て、少し眉間にシワを寄せた。
天野 カエデ
いや、臭いとか言われても困るからね?
あなた

いや、言って、ない、です。

天野 カエデ
じゃ、何でそんなガタガタな言い方するの?
あなた

こ、れは、寒くて、体が、震、えてるから、です!

天野 カエデ
はいはい。


『ガチャンッ』

エントランスゲートのロックが解除される音がして、
天野くんは私の荷物を手に取るとそそくさと中へと入る。

私も掛けてもらったジャケットを落とさない様に、慌てて後ろをついていく。



エレベーターの壁に貼ってある大きな1枚鏡に私達の姿が映る。

天野くんは鏡に映る私をチラリと見て聞いてきた。
天野 カエデ
俺、1回、昼頃に家に戻って来たんだけど、その時はあなたちゃん居なかったよね?
あなた

まぁ、はい。

天野 カエデ
え、じゃ、昼前から買い物してたって事?
あなた

まぁ…

近辺の入り組んだ住宅街を迷い、地図アプリを頼りに店を探し歩いたせいで遅くなったのもあるが、
出来るだけ出費を最低限に抑える為、様々な店を回り、
天野くんが使っている消耗品や食品と同じものを探していた。
天野 カエデ
どうして?
あなた

え?

天野 カエデ
近くの店で全部揃えれば良かったのに。わざわざ俺が使ってるのと同じやつ買っちゃってさぁ…
あなた

……何かこだわりがあるのかな、って思って。

天野 カエデ
こだわり?
あなた

肌が弱かったり、アレルギーとかあるのかな、って…それを知る為に一緒に買い物に付き合って欲しいってお願いしたんですけど…

天野 カエデ
あー、なるほどね!今、理解した。因みに俺はアレルギーも肌関係のトラブルとかも無いから安心して?
あなた

そうですか。

天野 カエデ
そっか〜…じゃ、今日は俺の為に雨で濡れてまで頑張ってくれたんだ?
鏡越しにニヤッと笑う天野くんの姿を目に入れてから、私はふうっと息を吐いた。
あなた

他に誰の為だって言うんですか。

天野 カエデ
天野くんは鏡越しに私と目をぱちくりさせた後、クスッと笑って「あぁ、そう?」と返した。
天野 カエデ
急にデレられても困るんだけどなぁ…
あなた

別にデレてない!

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