第61話

天野 カエデside
557
2021/02/21 15:00

シンプルに嫌だった。


元カノと同じ屋根の下で暮らす事に何故か耐えられなかった。


最初はそうでなくとも、どうしてなのか、日に日にストレスを感じる様になった。


ベタベタされるのも、自由が効かないのも…

後はズケズケと人が話したがらないであろう内容の質問をしてくるのも嫌だった。



(多分、その部分に『干渉がウザい』が含まれてるんだろうけど。)



以前、元カノが俺の身辺の関係や両親について、事細かに俺に聞いてきたことがあり、

渋り続ける俺に対してしつこく問いかけるので、応える前に一度聞いてみた。



『何でそんなこと聞いてくるの?』


『え?』


『俺、あんまり身内の話とかしたくないんだけど。』


『そうなの?』


『うん。』



ソファに足を組んで座っていた俺は雑誌のページを繰りながら、元カノの返答を待った。

暫く沈黙が続いた後、隣に座っていた元カノが出した答えは…



『恋人だから何でも知りたい。そう思っちゃ駄目なの?』



だった。



『…』



元カノの返答に対し、俺は黙って組んだ膝上の雑誌を読み続けた。

別にこの無言は特別驚いた訳でも、怒った訳でもない。


あぁ、そうなのか、と納得しただけ。




恋人だから何でも知りたい、というのは何が何でも傲慢すぎる。


『ねぇ、急にどうしたの?』と、元カノが俺の緩いスウェットの裾を引く。

雑誌の頁を繰る手を止められてしまった俺はゆっくりと口を開いた。



『ねぇ、チハル。』


『…何?』


『別れて欲しいんだけど。』


『………』



俺の言葉に元カノは暫く何も話さなかった。

だが、何処かでいずれ俺が別れを切り出すと思っていたようで、

少しして、



『分かっ、た。』



という返事を震える声で貰った。



その後はこれといった交流はなく、互いの進路に沿って進んで行った。

SNS上のやり取りも無ければ、俺が元カノのアカウントを見ることもない。

就職活動をするようになった頃には最早、お互いの近況や何処に居るかさえも知らないようになった。





(…はずだったんだけどな〜。)



今年の春、顔を合わすまでは_____。



町田 タカユキ
ほら、校門だけど?
天野 カエデ
うん?

町田の一言を聞いて、俺はこの場に意識を戻した。
町田 タカユキ
敬語やめなよ。
天野の敬語だけは気味が悪い。
天野 カエデ
ハハッ、言い過ぎだろ。

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