第56話

天野 カエデside
649
2021/01/10 12:00
天野 カエデ
そっかそっか。

俺に続き、彼女も俺の真正面の席に着く。

天野 カエデ
で?
あなた

『で?』?


「いただきます」の一礼を2人揃って済ませた後、俺はさっきの質問の応えを聞くべく彼女に問いた。
天野 カエデ
結局、俺とお買い物デートするの?
あなた

お、お買い物デートって言い方…もう少し警戒心を持って行動して下さい、って前にも

天野 カエデ
俺が誰とデートしても関係なくない?
あなた

それはそうですけど。

天野 カエデ
それはそうなんだ?
妬いてくれるわけじゃないんだ?
あなた

なんで私が妬くんですか。

天野 カエデ
冗談だって。
あなた

………でも、良いです。
遠慮しておきます。

天野 カエデ
ふーん?

(遠慮、ねぇ…)


ただ単純に素朴な疑問をぶつけてみる。

彼女のような塩対応を " 心掛ける " タイプは、案外問い詰められるとボロが出るものだ。

俺はそれをよく知っている。
天野 カエデ
なんで?
あなた

え?

天野 カエデ
遠慮なんかしなくて良いのに。
もしかして、迷惑かけちゃう〜とか思ってる?
あなた

それもありますが、

天野 カエデ
『ますが、』?
あなた

…きょ、今日は別に寄る所があるので。

天野 カエデ
寄る所?何処?
あなた


首を傾げて聞いた俺を視界に入れた彼女はほんの少し動きを止め、フイッと俺から顔を背けた。
あなた

…天野くんには関係ないです。

天野 カエデ


(ほんっと連れないなぁ〜。)


相変わらず、連れない態度をする彼女。

本当にこればかりは出会った頃から変わらない。

愛想も無いし、何かと秘密にしたがるし。

自分の事を話したがらないところが謎すぎる。
天野 カエデ
俺に話せない所?
あなた

話したくない所です。

天野 カエデ
良いじゃん、教えてよ〜。
あなた

だから、話したくないんですって。


ほら、また秘密にしたがる。


(ふぅん…あっそ。)


本当に俺に隠し通せるとでも思っているのだろうか?

俺が検討も付けずに今話してるとでも?
天野 カエデ
ま、いいや。
女の子に言いたくない事を問い詰めるのも野暮だしねぇ。
あなた

そうですよ。


俺が素直に退いたと思ったのか、

緩やかな息が彼女の口から出たのが分かった。
天野 カエデ


" 連れない態度 " も " 塩対応 " も、

まだ少し冷たいようで柔らかい春風を玄関から彼女と共に部屋に招き入れた時から、

何も変わっていない。



それでも彼女自身が気づかないだけで、

変わった部分は少なからずある。




例えば、

最初の頃は俺に付け入る隙も与えないように、と張り詰める空気が彼女を取り巻いていたが、

今は自然に冗談を言えるぐらいには打ち解けられたみたいだ。


まぁ、年齢詐称且つ男の家に住んでいる事を周りに隠していた彼女にとって、

俺に全部バレた事で肩の荷がほんの少し降りたんだろうけど。



天野 カエデ
ふふっ、
あなた

…!(汗)"




だから、時折俺の前で見せる隙を、


天野 カエデ
そっかそっかー、
あなた

(何か嫌な予感が…)




どうしようもなく突いてやりたくなる時がある。


困らせてやりたくなる時がある。




プリ小説オーディオドラマ