第4話

♯初対面の話 ①
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2019/12/12 03:09
天野 カエデ
あなた

天野 カエデ
俺、あんたみたいな人を呼んだ訳じゃないんだけど。

(…は?)


草履に足を突っ込み、片腕でドアを押しながら目の前の美男子はだるそうに言った。


(いやいやいや…)


思わず叫びそうになるのを堪える。


(こっちだって、聞いてた話と違うんですけど?!)


このバイトはもともと前バイトの上司の方に勧めてもらった物だった。

確かに女性だと聞いたのだが…
あなた

私の前に立つのはどう見ても男の人だ。
天野 カエデ
あなた

(ど、どうするかなぁ…)


私のバイトは家政婦のようなものだが、

提携を結んでいるマンションやアパートが幾つかあり、

その中でバイト先のオーナーさんが私達それぞれのシフトや要望に応えて派遣する。

つまり、クライアントの名義はマンションやアパート所持者の名義である事が多い。

私が見た書類には確かに『女性』とあった。


オーナーさんも女性だからと、

私の

『お金が必要なので、住み込みで入れる、1番高いクライアントさんの所に行かせて下さい』

という無理難題を聞き入れてくれた。

あなた

あの…違ってたら申し訳ないんですけど…お部屋の名義、女性になってませんでした?

天野 カエデ
えっ、あー…
可能性として有り得る、私の人違い。

「すみません、人違いでした。」という言葉を喉で待機させて、目の前の美男子の返答を待った。
天野 カエデ
それ俺の姉貴だな。『天野』は俺で合ってるよ。
あなた

下の名前は何ですか?

可能性として有り得る、第2の人違い。
天野 カエデ
『カエデ』。
あなた

嘘でしょ…

天野 カエデ
嘘なんかついてどうすんだよ。
クライアントは『天野 カエデ』。

それは合ってるらしい。


(確かに、普通はこんな所で嘘なんかついても仕方ないけど…)


変な汗が妙に吹きでそうだ。


(私にとっては重大事件なんですけど…?!)
天野 カエデ
寒っ。取り敢えず、部屋入って。部屋の温かい空気が逃げる。
もう4月に入るというのに、肌寒い空気は容赦なく私達の体温を奪っていく。

昼間は温かいが、朝はそうではない。
あなた

ど、どうも…

玄関に足を踏み入れた瞬間、





『ドンッ』



片腕を掴まれて壁に強く押し付けられる。
あなた

っ…?!

天野 カエデ
ゆっくりと外の景色がドアの隙間から消えていくのが、視界に微かに入る。
天野 カエデ
あなた

じっと私を見つめる、2つの大きな瞳。


彼からはほんのりといい匂いがした。

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