ホクトはお風呂から出てタオルで髪を拭きながら寝室に入ってくる。
コーチは、寝支度の準備をしていた。
コーチの背後からホクトが抱きつく。
ホクトの弱々しい声に反して腕の力は強くなる。
コーチはホクトの腕に優しく手を添える。
コーチはあきらかに動揺していた。
動揺を隠すように、ホクトから離れようとするが、がっちり捕まえられている。
ホクトはいつもに増して真剣なトーンで話をする。
コーチは、ホクトの腕を振り解くと振り返りホクトと向き合う。
コーチは自分からホクトに抱きつく。
コーチがホクトに抱きついた手はかすかに震えていた。ホクトは、すぐに震えている事に気づくが…
何も出来ずに無言のままそっと抱き寄せる。
言葉にしってしまったら、何かが壊れそうで…
ホクトは向き合えなかった。
コーチは明るく話そうとするがかすかに涙声。
ホクトに顔が見せられず、ホクトの胸に頭をつけて俯く。
コーチは、わざと棘のあるいい方をしてホクトから離れ、部屋を出ていく。
そして、シャワーを浴びる。
ホクトと離れたくないって何度も心の中で叫んだ。
シャワーのお湯と一緒に頬をつたう涙。
屋敷に戻らないと…
ホクトの店を潰すって脅迫されて嫌ですと言えなかった。これ以上、ホクトには迷惑かけられないし、きっとこのことホクトに伝えたら、ホクトはまた無理しちゃうじゃないかなって…。
屋敷で閉じ込められた時だって…
実は、ジェシ様にホクトに一緒には暮らせないって伝えてと言ったはずなのに…ホクトは助けに来てくれた。
そして、ホクトに甘えてしまった。
そのツケが今になってきたのかなって情けなくなる…。
コーチは、寝室に向かうと既にあかりは消されホクトは横になっていた。本当に寝ているかは定かではない。
いつもようにベッドを借りて眠りつこうとするが寝れるわけがない。
そして、一睡も出来ずに朝をむかえる。
外が薄明るくなり、コーチは支度を整え家を後にする。
家を出ると名残りおしそうに店を見て…
ホクトと自分がいた時の回想に浸る。
深呼吸して気持ちを切り替えると、屋敷に向かう。
ホクトは寝室の窓のカーテン越しにひっそりと見送っていた。
ホクトは、コーチにちゃんと自分の気持ちを伝えておけばと後悔していた。と同時にもう会うことはできないであろうと悟った。
𝓽𝓸 𝓫𝓮 𝓬𝓸𝓷𝓽𝓲𝓷𝓾𝓮𝓭
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!