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2022/01/01

第13話

銀河鉄道の夜 八 鳥を捕る人 1
八 鳥をる人
鳥捕り
ここへかけてもようございますか
 がさがさした、けれども親切そうな、大人おとなの声が、二人ふたりのうしろで聞こえました。
 それは、茶いろの少しぼろぼろの外套がいとうて、白いきれでつつんだ荷物にもつを、二つに分けてかたけた、赤髯あかひげのせなかのかがんだ人でした。
ジョバンニ
ジョバンニ
ええ、いいんです
ジョバンニは、少しかたをすぼめてあいさつしました。その人は、ひげの中でかすかに微笑わらいながら荷物にもつをゆっくり網棚あみだなにのせました。ジョバンニは、なにかたいへんさびしいようなかなしいような気がして、だまって正面しょうめん時計とけいを見ていましたら、ずうっと前の方で、硝子ガラスふえのようなものが鳴りました。汽車はもう、しずかにうごいていたのです。カムパネルラは、車室の天井てんじょうを、あちこち見ていました。その一つのあかりに黒い甲虫かぶとむしがとまって、そのかげが大きく天井てんじょうにうつっていたのです。赤ひげの人は、なにかなつかしそうにわらいながら、ジョバンニやカムパネルラのようすを見ていました。汽車はもうだんだん早くなって、すすきと川と、かわるがわるまどの外から光りました。
 赤ひげの人が、少しおずおずしながら、二人にきました。
鳥捕り
あなた方は、どちらへいらっしゃるんですか
ジョバンニ
ジョバンニ
どこまでも行くんです
ジョバンニは、少しきまりわるそうに答えました。
鳥捕り
それはいいね。この汽車は、じっさい、どこまででも行きますぜ
カムパネルラ
カムパネルラ
あなたはどこへ行くんです
カムパネルラが、いきなり、喧嘩けんかのようにたずねましたので、ジョバンニは思わずわらいました。すると、こうのせきにいた、とがった帽子ぼうしをかぶり、大きなかぎこしに下げた人も、ちらっとこっちを見てわらいましたので、カムパネルラも、つい顔を赤くしてわらいだしてしまいました。ところがその人はべつにおこったでもなく、ほおをぴくぴくしながら返事へんじをしました。
鳥捕り
わっしはすぐそこでります。わっしは、鳥をつかまえる商売しょうばいでね
ジョバンニ
ジョバンニ
何鳥ですか
鳥捕り
つるがんです。さぎも白鳥もです
カムパネルラ
カムパネルラ
つるはたくさんいますか
鳥捕り
いますとも、さっきから鳴いてまさあ。聞かなかったのですか
カムパネルラ
カムパネルラ
いいえ
鳥捕り
いまでも聞こえるじゃありませんか。そら、耳をすましていてごらんなさい
 二人ふたりはげ、耳をすましました。ごとごと鳴る汽車のひびきと、すすきの風との間から、ころんころんと水のくような音が聞こえて来るのでした。
ジョバンニ
ジョバンニ
つる、どうしてとるんですか
鳥捕り
つるですか、それともさぎですか
ジョバンニ
ジョバンニ
さぎです
ジョバンニは、どっちでもいいと思いながら答えました。
鳥捕り
そいつはな、雑作ぞうさない。さぎというものは、みんな天の川のすなかたまって、ぼおっとできるもんですからね、そして始終しじゅう川へ帰りますからね、川原でっていて、さぎがみんな、あしをこういうふうにしておりてくるとこを、そいつが地べたへつくかつかないうちに、ぴたっとおさえちまうんです。するともうさぎは、かたまって安心あんしんしてんじまいます。あとはもう、わかり切ってまさあ。にするだけです
ジョバンニ
ジョバンニ
さぎにするんですか。標本ひょうほんですか
鳥捕り
標本ひょうほんじゃありません。みんなたべるじゃありませんか
カムパネルラ
カムパネルラ
おかしいねえ
カムパネルラがくびをかしげました。
鳥捕り
おかしいも不審ふしんもありませんや。そら
その男は立って、網棚あみだなからつつみをおろして、手ばやくくるくるときました。
鳥捕り
さあ、ごらんなさい。いまとって来たばかりです