第12話
銀河鉄道の夜七 北十字とプリオシン海岸3
カムパネルラが、不思議そうに立ちどまって、岩から黒い細長いさきのとがったくるみの実のようなものをひろいました。
二人は、ぎざぎざの黒いくるみの実を持ちながら、またさっきの方へ近よって行きました。左手の渚には、波がやさしい稲妻のように燃えて寄せ、右手の崖には、いちめん銀や貝殻でこさえたようなすすきの穂がゆれたのです。
だんだん近づいて見ると、一人のせいの高い、ひどい近眼鏡をかけ、長靴をはいた学者らしい人が、手帳に何かせわしそうに書きつけながら、つるはしをふりあげたり、スコップをつかったりしている、三人の助手らしい人たちに夢中でいろいろ指図をしていました。
見ると、その白い柔らかな岩の中から、大きな大きな青じろい獣の骨が、横に倒れてつぶれたというふうになって、半分以上掘り出されていました。そして気をつけて見ると、そこらには、蹄の二つある足跡のついた岩が、四角に十ばかり、きれいに切り取られて番号がつけられてありました。
その大学士らしい人が、眼鏡をきらっとさせて、こっちを見て話しかけました。
大学士はあわてて走って行きました。
カムパネルラが地図と腕時計とをくらべながら言いました。
ジョバンニは、ていねいに大学士におじぎしました。
大学士は、また忙しそうに、あちこち歩きまわって監督をはじめました。
二人は、その白い岩の上を、一生けん命汽車におくれないように走りました。そしてほんとうに、風のように走れたのです。息も切れず膝もあつくなりませんでした。
こんなにしてかけるなら、もう世界じゅうだってかけれると、ジョバンニは思いました。
そして二人は、前のあの河原を通り、改札口の電燈がだんだん大きくなって、まもなく二人は、もとの車室の席にすわっていま行って来た方を、窓から見ていました。