無料スマホ夢小説ならプリ小説 byGMO

44
2021/12/04

第9話

銀河鉄道の夜 六 銀河ステーション 2
 ジョバンニはなんだかその地図をどこかで見たようにおもいました。
ジョバンニ
ジョバンニ
この地図ちずはどこで買ったの。黒曜石こくようせきでできてるねえ
 ジョバンニがいました。
カムパネルラ
カムパネルラ
銀河ぎんがステーションで、もらったんだ。きみもらわなかったの
ジョバンニ
ジョバンニ
ああ、ぼく銀河ぎんがステーションを通ったろうか。いまぼくたちのいるとこ、ここだろう
 ジョバンニは、白鳥と書いてある停車場ていしゃばのしるしの、すぐ北をしました。
カムパネルラ
カムパネルラ
そうだ。おや、あの河原かわらは月夜だろうか
そっちを見ますと、青白く光る銀河ぎんがきしに、ぎんいろの空のすすきが、もうまるでいちめん、風にさらさらさらさら、ゆられてうごいて、なみを立てているのでした。
ジョバンニ
ジョバンニ
月夜でないよ。銀河ぎんがだから光るんだよ
ジョバンニはいながら、まるではね上がりたいくらい愉快ゆかいになって、足をこつこつ鳴らし、まどから顔を出して、高く高く星めぐりの口笛くちぶえきながら一生けんめいびあがって、その天の川の水を、見きわめようとしましたが、はじめはどうしてもそれが、はっきりしませんでした。けれどもだんだん気をつけて見ると、そのきれいな水は、ガラスよりも水素すいそよりもすきとおって、ときどきのかげんか、ちらちらむらさきいろのこまかななみをたてたり、にじのようにぎらっと光ったりしながら、声もなくどんどんながれて行き、野原にはあっちにもこっちにも、燐光りんこう三角標さんかくひょうが、うつくしく立っていたのです。遠いものは小さく、近いものは大きく、遠いものはだいだいや黄いろではっきりし、近いものは青白く少しかすんで、あるいは三角形さんかくけい、あるいは四辺形しへんけい、あるいはいなずまくさりの形、さまざまにならんで、野原いっぱいに光っているのでした。ジョバンニは、まるでどきどきして、頭をやけにりました。するとほんとうに、そのきれいな野原のはらじゅうの青やだいだいや、いろいろかがやく三角標さんかくひょうも、てんでに息をつくように、ちらちらゆれたりふるえたりしました。
ジョバンニ
ジョバンニ
ぼくはもう、すっかり天の野原に来た
ジョバンニはいました。
ジョバンニ
ジョバンニ
それに、この汽車石炭せきたんをたいていないねえ
ジョバンニが左手をつき出してまどから前の方を見ながらいました。
カムパネルラ
カムパネルラ
アルコールか電気だろう
カムパネルラがいました。
 するとちょうど、それに返事へんじするように、どこか遠くの遠くのもやのもやの中から、セロのようなごうごうした声がきこえて来ました。
ごうごうした声
ここの汽車は、スティームや電気でうごいていない。ただうごくようにきまっているからうごいているのだ。ごとごと音をたてていると、そうおまえたちは思っているけれども、それはいままで音をたてる汽車にばかりなれているためなのだ
ジョバンニ
ジョバンニ
あの声、ぼくなんべんもどこかできいた
カムパネルラ
カムパネルラ
ぼくだって、林の中や川で、何べんも聞いた
 ごとごとごとごと、その小さなきれいな汽車は、そらのすすきの風にひるがえる中を、天の川の水や、三角点さんかくてんの青じろい微光びこうの中を、どこまでもどこまでもと、走って行くのでした。
カムパネルラ
カムパネルラ
ああ、りんどうの花が咲さいている。もうすっかり秋だねえ
カムパネルラが、まどの外をゆびさしていました。
 線路せんろのへりになったみじかい芝草しばくさの中に、月長石げっちょうせきででもきざまれたような、すばらしいむらさきのりんどうの花がいていました。
ジョバンニ
ジョバンニ
ぼくびおりて、あいつをとって、またってみせようか
ジョバンニはむねをおどらせていました。
カムパネルラ
カムパネルラ
もうだめだ。あんなにうしろへ行ってしまったから
 カムパネルラが、そうってしまうかしまわないうち、つぎのりんどうの花が、いっぱいに光ってぎて行きました。
 と思ったら、もうつぎからつぎから、たくさんのきいろなそこをもったりんどうの花のコップが、くように、雨のように、の前を通り、三角標さんかくひょうれつは、けむるようにえるように、いよいよ光って立ったのです。