あれから10分も経っていないだろう。
宿は無事、私が元々泊まる予定だった場所と同じ建物で新たに二人分の部屋を予約することが出来た。
その束の間の喜びを押しつぶしていくかの様に負の感情は大きくなる一方。
聞くべきか聞かざるべきなのか、選択に戸惑う。
流石普段から大人数を束ねているだけあって彼は鋭い。
私は少し沈黙し、口を開いた。
私は問いただすことを辞めた。
冷静になると容易に分かることだ。
たかだか会って一日や二日、こんなにも短い期間で一人の人間を繋ぎとめておきたいなどと思う筈がない。
私は彼に気持ちを読まれてしまわないように努めることに決めた。
彼は屈託の無い笑顔で、そう返してくれた。
撮影等の仕事だと分かり、ゴネる訳にもいかなかった。仕方がない。
昨日出来なかった分溜まってしまっているのだろうか、申し訳なくなる。
つい笑ってしまった。なんて真っ直ぐな人なんだろうか。
この時…いやきっともう少し前からなのかもしれない。私はファンとしての憧れではなく、ひとりの男性として純粋に彼に惹かれていた。
帰りの便は明日の午前中。
時間が過ぎる度に膨れ上がっていく気持ちを必死に抑えつつ、東京旅行の二日目が始まる。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。