*126*
〇:で、出ないんですか?
覆いかぶさっている至近距離なのに、私の問いが聴こえているのかも、分からない…
そのうち、大きなため息を吐いて、私から離れた。
ピッ!
濵:はい……おん……おん……そっか…分かった。待っとるわ…ほな……
ピッ!
電話を切り、ため息を吐いた先輩は、部屋の隅のカバンの前で座ったまま、うつむいて動かない…
その背中は悲しげで、何とも言えないセツナさで いっぱいで…
気を許したら、抱きしめてしまいそうな…
癒してあげたくなっちゃいそうな…
でも、そんな勇気は私には無くて…
濵:お終いや…
振り返って、すまなそうに言った先輩は、涙を拭っていた。
濵:仕事や。まだ人間にはなれへんわ…
〇:…仕事…って?
私が問いかけたと同時に、部屋の扉が開いた。
*127*
カ:おっじゃまっしまぁ〜すぅ!
藤:てか、来ちゃって大丈夫やった?お取り込み中や無かったかぁ〜??w
一気に賑やかになった部屋は、さっきまでの空気感が無くなっていた。
〇:藤井くん、もう大丈夫なの?
カ:大丈夫 大丈夫!私が側でナデナデしてあげてたら、すぐに回復だよぉ〜!愛のチカラ?ww
〇:あ…愛の……ね?ww
藤:なぁ〜濵ちゃん?そんなところでどないしてん?
濵:なんでも あらへんわ!それで、なんや?どういう事や?
カバンの前に座ったまま動かない先輩に、ちょっかいを出す藤井くん。
今は、やめてあげて〜!
そう思っても、言えない。
カ:あのね 〇〇?流星にも助けてもらうから!!!
〇:えっ?
カ:心強いでしょ?!
〇:う…うん……でも…信じないでしょ……?
藤井くんに言ったら、鼻で笑われて おわりにされそう。
それに…
*128*
それに…
人間の力で、どうにかなるような気がしない。
濵:〇〇…カレンに話したんか?
〇:うん。だって、考えてもみてよ?私にとってカレンは、たったひとりのかけがえのない存在なんだよ?家族も彼氏もいない私には…カレンしか……
カ:えっ?濵田先輩にも話したの?
〇:あ〜……そうだね…
カ:そういう事なら話は早い!じゃあさ?四人で会議しよぉーーーッ!オーッ!!!
ワザとなのか、明るく この場のテンションを上げるカレン。
その向こうで、私の顔をジッと見てるのは、藤井くん。
〇:あ〜だよね?信じてないんでしょ?
藤:そうやないよ?…でも、もうこれ以上、手こずらせないで欲しいんや。
〇:えっ…
藤井くんはカレンの側に移動して座った。
藤:カレン あのな?……俺ホントは…
藤:ルトゥやねん。
えッ!!!
藤井くんも?!!!
*129*
カ:??るとぅ??それって…なに?
私も人間の身体だけど…
ここにいる4人の中で、地球人はカレンだけ?
そう考えると、何となく怖かった。
〇:……月の人だよ。
カ:ぅえぇぇぇッ?!……マジで?マジで言ってんの??…あ!分かった!ドッキリィ〜?もぉ!やめてよねぇ〜ww
藤:ドッキリやないで?ホンマや。
カ:え、、、、、流星…騙してたの?
藤:そうやない。言えんかった。言ったら…俺を、好きにはならんやろ?
カ:そ…それは…
〇:カレンを責めないで!
藤:…責めてるワケやない。けど…
〇:けど??じゃあ 聞くけど、カレンに近づいたのは、どういう事だったの?私の側にいる為。私を守る為。そうじゃないの?
藤:…初めはな。そうやった。
初めは?
藤:カレン聞いてくれる?
カ:……ぅん…
藤:ルトゥは、人間と身体を重ねてしまうと、人間になってまうんや。
*130*
カ:…??んっ?どぉいうこと??
藤:せやから、もう俺は、ルトゥには戻れん。人間のままで居るしか無いんや。
カ:…それって…私と……シたからって事…?
藤:おん。俺は……使命も故郷も、捨てた。
藤:カレン?…お前を愛しとる。
カ:流星…
私が今、思ったことは…
羨ましい。
何もかも捨てて、愛する人を選ぶ…
濵田先輩も…そうしようとしてる…
けど…私には…
できない。
人の…
ルトゥの命が かかっている。
月の運命が かかっている。
羨ましい。
そう思うしか無かった。
〇:じゃあ……私に恋愛しろって言ったのは…どうして?
藤井くんがルトゥなら、矛盾してる。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!