*86*
ト:あなたの、たった一人の…
_______________________『ルトゥナ』
ト:タイムリミットが近づいているわ!
〇:どういう事ですか?
ト:私達の文明には…姫のパワーが必要なんです!
〇:……パワーって…
私は普通の人間で…何のパワーも無い。
誰が どう見ても、冴えない地味子の基本幸薄で、運動も勉強も『中の上』。
お料理も上手くないし、お掃除だって手抜きだし…
ト:タイムリミットは、あなたを迎えに行けなかった時から、地球の時間で10年。次の7月7日…の前日まで。
〇:私の誕生日の前まで…
ト:その日までに月に到着しないと、私達の文明は滅び、ルトゥは息絶える。
〇:えっ……
息絶える……
彼も……?
トキさんは、忘れてしまうほど たくさんの情報を話してくれた。
*87*
木枯らしが吹いていたかと思ったら…
辺りは一面の銀世界。
季節の移り変わりが、私を苦しめていく。
トキさんが言っていた。
ルトゥは、恋愛をして子孫を残すワケではないと。
恋愛をしないのだろうか?
好きという感情は無いのだろうか?
彼は私と…
月で どう暮らすのだろうか?
好きだと思わない人と、同じ運命を歩むと言うのだろうか?
人間の私には、理解が出来なくて…
出逢わなければ良かったのに…
どうして私を見つけたのよっ?!
ばかっ!!!
むなしい怒りばかり。
私はこんなにも…
彼に会いたいのに…
カ:ランチ行こっ!
〇:外 雪だよぉ〜寒いのキライ!カレンだけ行ってきな〜
カ:そうやってぇ〜!また食べないのぉ?お腹 空かないの?
〇:もぉ…そんな感覚、分からない…
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カ:〇〇…最近、痩せてきた。可愛くないよ?ガリガリじゃぁ!
藤:カレン〜♡ ランチ行こぉ〜!
〇:ほら、行ってきな!
藤:〇〇も!ヒロがガリガリな子はキライやって!
〇:はぁ?関係ないし!!!
カ:はいはい。同期3人で行こうww
そんな事 言ってるけど…
こうやって、彼が元気でいる事を確認できるのは、私にとって癒しだった。
藤:なぁ?今年はスノボ どないする?
〇:私 行かない…
カ:そんな事 聞いてんじゃないの!ドコに行くかって話し!
〇:だから、行かない!
藤:やっぱ 石川まで行こか?去年、温泉も良かったし!
〇:あのねぇ?どうして3人で行かなきゃなの?カップルと私って…居ズライわ!
藤:3人やないで?あ〜6人…かな?
〇:余計に行かないでイイじゃん!絶対に行かないからね!
とは言うものの、既に休みは取っちゃったし…
ひとりで三連休って…
淋し過ぎるやろぉーーーッ!!!
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こんな時、決まって考えてしまう。
ひとりの休みも、彼が居たらなぁ…
起きた瞬間から楽しかった、あの数日が恋しかった。
片想いかぁ…
基本幸薄には、お似合いかもな。
“ ヒ:〇〇! ”
えっ?ドコ?
辺りを見渡しても、居ない。
だってココ、女子トイレだし。
彼を探して、勢いよくトイレを飛び出した。
オフィスの廊下には、誰も居なくて…
空耳か…
そんな自分が情けなかった。
エレベーターの扉が開くと、たくさんの資料を抱え込んだ、濵田先輩が降りてきた。
私に気付くと、焦った顔で一瞬 足を止め、少しだけ後ずさりしたかと思うと、逃げ出せない状況に諦めたのか、
濵:あ、あの、、、よ、よおっ!
と、久々に顔を合わせた私に、苦笑いをした。
バーベキューでキス未遂をした以来、濵田先輩は、私を避ける様になった。
けど…
もうそろそろ、話したい。
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〇:あの、先輩?今夜、時間ありますか?
濵:え……俺…??
〇:ふふっw 先輩しかいないじゃないですか?
濵:お、お、おう!せやな!ええよ!ははっw
ドサッ!!!
濵:うわぁっ!やっべぇ〜〜!
気が緩んだのか、先輩は持っていた大量の資料を落として ばら撒いた。
〇:もぉ〜〜w 世話がやけるなぁ〜
濵:悪りぃ!……てか、やっぱ、ふたりやと楽しいな?
〇:えっ?//
濵:……は、や、えっ?// そ、そういう意味やないで?//
〇:ふふっw ですよね〜
オフィスでは、今までと変わりなく接する事にした私は、濵田先輩の反応をスンナリ返した。
ホントはドキドキだった。
どういう意味の『楽しい』なんだろう?
先輩がルトゥだとしたら…
私に気があるワケがないんだから…
こないだのキスだって…
幼い頃の記憶だって…
どういう意味があるんだろう?
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。