*421*
鉄格子の小さな扉が開くと、
私は、その中へと足を踏み入れた。
カプセルの水の中に漂う身体は…
とても綺麗で…
シんでしまうかも知れないなどという考えを、
消し去ってくれるように思える。
私は、そのカプセルへと、手のひらを当てた。
酸素マスクから、一定の速度で漏れる空気だけが、生きていると感じられる。
でも…
怖い…
ずっとこのままなんて事だって、有り得るんでしょ?
「 〇:どうして…? 」
「 〇:どうして、私を ひとりにするの? 」
「 〇:ねぇ…」
「 〇:私まだ、、ほんの少ししか伝えられてないの、、」
「 〇:愛してるの……………ヒロ…… 」
*422*
「 〇:愛してるの……………ヒロ…… 」
心で語りかけた。
想いを ぶつけてみた。
大毅みたいに、聞こえてるかも知れない。
少しの望みを、、期待に変えていた。
何の反応もない。
機械の数値も、変動しない。
やっぱり、、ダメなんだ…
どうして、、?
こんな風になる事なんて、知ってたはずなのに…
なのに どうして、月に来たの?
命をかけてまで。
知らずに泣いていた私は、
側に来た大毅に抱き寄せられた。
シ:ベイビちゃんとこ、、戻ろ?、な?
私は、コクリっと頷く事しかできず、
泣きながら、ヒロの側を離れ…
ガシャンッ!!!
鉄格子の扉が閉まる音だけが、ヤケに大きく、響き渡った。
*423*
私はお城へ戻り、また広い自分の部屋へと身を寄せた。
赤ちゃんと一緒に。
次の日も、また次の日も…
毎日、ヒロの病室へと足を運んだ。
そんな日が数日過ぎた時、
お城の仕事で、赤ちゃんを執事に預けられず、
私は初めて、赤ちゃんを連れて、ヒロに逢いに行った。
なんだか…
ドキドキと、胸が速く打っていた。
〇:、、パパだよ。
私は、赤ちゃんの顔をヒロの方へと向けて言った。
ヒロは相変わらず そのままで…
体力が戻る様子もなくて…
私はまた、涙を流した。
ぽとり…と落ちた涙。
赤ちゃんが泣き出した。
その泣き声は、たくましく…
ママへのエールに聞こえ…
頭の中で、こだまする。
*424*
「 〇〇…、、がんばりや… 」
ッ!!!
確かにそう聞こえた。
「 〇:ヒロなのっ?」
カプセルの中のヒロは、何も変わらずにいる。
オギャー!オギャー!
と、赤ちゃんの泣き声だけが、響いているだけだった。
「 〇:、、ヒロ…ねぇ、聞こえてる? 」
返事があるわけ無い。
そう思い、また涙が溢れ出した。
「 ヒ:その子は… 」
「 〇:ッ!、ヒロ?、、いま何か言ったでしょ? 」
「 ヒ:…その子の名前は、、テラ。、、」
「 〇:、、、テラ…? 」
「 ヒ:俺らが出逢った場所… 」
「 〇:、地球…? 」
赤ちゃんの顔を見て、呟いた。
〇:、、、テラ…
すると、ギャン泣きしてたのが、ピタッと止んだ!
*425*
「 ヒ:〇〇、、アイシテル… 」
「 〇:ッ!、ヒロッ!、、行かないでっ!!! 」
目を覚ますと思ったけど…
ヒロは、ピクリとも動く事もなく…
〇:テラ。、、パパまだ眠いんだね?
〇:また…くるね、、、ヒロ…
私は、涙を拭い、その場を後にした。
シ:どないしたん?
私は大毅を呼び出した。
〇:大毅、、名前…決まったよ!
シ:え、なになにぃ??
〇:…テラ。
シ:、、、地球?
〇:そう。、、ヒロがね、、教えてくれたの。
シ:っ、目覚めたんか?
〇:ううん。、、状態は、な〜んにも変わらない。、、けど…
ふわぁ〜〜ん…
と、可愛らしい あくびをするテラに、
癒しをもらった。
〇:けど…、、テラも感じてる。、、パパの存在を。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。