第74話

『君月』356〜360
112
2020/05/19 00:14

*356*





それから…






私が気付いたのは、
ちょうど丸一日 経った頃。





日本時間で言うと…
7月6日の 朝だった。





ゆっくりと瞼が開く…




ぼやけた視界が、だんだんと晴れると、

大きな透明のカプセル状のベッドの屋根が見えた。




何度か瞬きをして、ゆっくりと辺りを見渡した。




何かの警告音なのか、

ピピピッ!ピピピッ!と、なり始めると、

かすかに、自動ドアの開く音が聞こえ、





「ひ、、、姫様…ッ…」





看護師のような女性が、目覚めた私を見て、涙を流した。





知らない人が…
私が無事でいた事に、泣いている…




なんだか、変な感覚だった。







桐「姫様!、お目覚めになられましたか!」





バタバタと慌てて駆けつけた桐山さんは そう言うと、


分かりやすく胸を撫で下ろした。







*357*




桐「良かった、、、でもまだ、体力は回復しておりませんので、ここで安静にしといてください。、私は上へ報告してまいります!」





そう言うと、ニッコリと満面の笑みを浮かべた。






この人…


こんな笑顔、するんだ…






桐山さんの笑顔がやけに印象的だった。








〇「あ、あの…」






立ち去ろうとする桐山さんを引き止めたその声は…


驚くほど弱々しかった。






桐「??、どうされました?」

〇「…シゲさん…は……?」

桐「あ〜、、重岡…ですね…」

〇「っ!、、もしかして…」

桐「いや、生きてます!アイツはちゃんと生きてます!、、ただ…まだ目覚めてないだけで…」





私のせいで…





桐「大丈夫ですよ!、後でまた様子を見に行ってきますから。そしたら報告に参ります!、、とにかく今は、お身体を休ませてくださいませ!、」








*358*



桐「とにかく今は、お身体を休ませてくださいませ!」






桐山さんは、私を心配させまいとしてる。



そんな事が手に取るように分かった。






〇「私も…行かせてください…シゲさんの側へ、」





はぁぁ、、と、短いため息をつき、うつむいた桐山さん。






桐「…分かりました。お迎えに参りますので、お待ちになっててください?、、くれぐれも、ひとりで出歩かないように、、ねっ?」





子供に言い聞かすかの様に、優しく私の顔を覗き込む。





そんな対応されたら…



やっぱり私も、微笑んでいて…






〇「はい、、お利口に、待ってますw」

桐「おん!ええこやww」






ニカッ!っと笑うと、足早に去って行った。







「桐山さんの笑顔…久しぶりに見ました、」





側で、点滴の様なモノを交換していた看護師さんが、嬉しそうにしていた。








*359*



少しすると、

「お待たせしました!」と、


桐山さんが笑顔で戻ってきて、


車椅子に移された私は、看護師さんに押され、


真っ白な廊下を移動した。





大きめの扉の前まで来ると、


「ここからは俺が、」と、看護師さんを帰した。






桐「怖ないからな?」

〇「えっ?……あ、はい…」






私に言ってるのか、自分に言い聞かせているのか…


振り向き見上げると、桐山さんの顔が、強張っていた。






私の中に、緊張が走った。






ウィんっ!と自動で開いたドアの先に目をやると…




私がいた部屋とは正反対に、暗闇だった。






〇「っ!、、こ、この中に、シゲさんが居るんですか?」

桐「おん…今は、、、体力は0で…」






壁に大きな窓があり、その前には大きなコックピットみたいな装置を見張っている人達がいて…


その装置の光だけが、この部屋を照らしていた。







*360*





ゆっくり進む、ヒンヤリとした部屋。





「あそこや、」と、桐山さんの視線の先、
ガラスの向こうのブースに…





ッ!!!



あ、あれが、、、シゲ、さん……?






声にならず、、、



私は車椅子の手すりを、ギュッと掴んでいた。





シゲさんは、縦に置かれたカプセルの中…





裸で、たくさんの管に繋がれ、
ブクブクと泡が浮上する水中で、十字架に架けられてるみたいな体勢で…






前髪だけが揺らいでいた。







それは、アニメや映画のシーンのようで…


ここが地球ではないコトを、私に感じさせた。






桐「今の重岡は、ヤツが持つ生命力だけで、こうしてる状態なんです…」







生命力…





“ 生きたい ” という、強い想いなのか…?





未熟児で産まれてきた、赤ん坊の様。





そんな風に、、、感じた…















お願い、、、生きて…










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