*161*
その、細くて長い指で、髪の隙間をなぞっていく。
彼が髪に触れる その感覚は、優しさと言えるほど…
私の体温を、構わず上げていく。
ホントやばい…
もう、保たない…
〇:て、てか//…ど、どうして?…う、ウチに来たの?まさか、藤井くんとケンカでもしたぁ??
散らさなきゃっ!!!
こんな気持ち、散らさなきゃ!!!
自分を見失う前に!
ヒ:喧嘩したって言うか……「男見せろ」って言われてん…
〇:エッ!オトコって!
もぉッ!!!
やっぱり藤井くん!
変な事吹き込んでぇーーーッ!!!
ヒ:イマイチ…分かんねぇ……けど…
ヒ:〇〇の顔見たら……何となく分かったかも……
〇:っ!!!へっ?……へッッッ??
*162*
ヒ:…〇〇ってさ……
彼がドライヤーを止めると、一気に静まった部屋。
同じ空間にいる事を…
ドッと意識してしまう…
ヒ:〇〇って……こんな綺麗やった…?
〇:…えっ//…………?
ヒ:人間の心って、不思議やな……こんなにも〇〇に会いたくて…こんなにも〇〇に……
ヒ:触れたい……って………思うねん。
ふ、ふ、フレタイ〜〜っ??
〇:え、ちょっ、ちょっ、まって?
何を吹き込まれたのか知らないけど…
私はその場から、少し離れながら言った。
〇:……ダメでしょ?…そんなの、ダメに決まってるじゃん!
その時、解った。
人間の欲望とは……
想像を超える、力を持っているんだと。
簡単に、心でさえも…
動かされてしまうんだと。
*163*
〇:…人間には……なれない…………でしょ?!
彼は、悔しそうに下唇を噛んだ。
しばらくして「せやな…」と、ドライヤーを持って行こうとした時…
〇:あ、あの//……だったらさ………
閃いた私の決心。
〇:…//…キス………しない…?
自分で言っといて、目が泳ぐ。
でも、打ち消そうと続ける私は、
彼を人間にしてはダメだという思いと…
〇:あなたの身体を……ルトゥに戻す。
それと…
彼に触れたい。
そんな思いが、交差していた。
ヒ:フッw あんな嫌がっとったのに……今度は俺が、嫌がるなんてな…
彼はドライヤーを片しに行ってしまった。
その後ろ姿を見る私は、どこかの回路がショートしていた。
彼に………触れたい……
*164*
大丈夫…私にだってそのくらい…
今の彼なら。
だって、私の方が人間の先輩だもの!
人間の…
欲望の事についてだって、私の方が理解してるハズ!
そうやって誘えば必ず…
体は反応する。
キスしたくなる………きっと…
ヒ:もう寝るやろ?俺、コタツでええから。
〇:えっ!でも…
ヒ:だって俺ら、恋人同士やないやろ?だから一緒に寝ないんやろ?
〇:ま…まぁ…そうだけど…
解ってる様で解ってない『人間の生態』を、彼なりにやっているのだろうけど…
〇:い//一緒でも…いいよ//…?
私の思惑とは反対だったから、そう答えたのに…
ヒ:おかしいやん!お風呂は一緒に入れん言うたやん!
〇:それとは全く違うでしょ?!それに…
それに、今は状況が変わってるじゃん…
*165*
解らない彼を相手に、私は空を掴む感覚だった。
でも、私も私か…
好きか分からない人に「一緒に寝てもいい」だなんて…
彼を混乱させるだけだな。
〇:分かったよ。じゃあ、お休みなさい…
ヒ:あ!待って〇〇…
彼は数歩 近寄り、私を抱き寄せた。
一緒に寝ないと決めた私は、どこか油断していたのか…
歩み寄る彼を拒もうとはしなかった。
ヒ:ハグ…なら ええやろ?恋人同士やなくても…
解ってるのか、解ってないのか…
私の頭では もう、解読不明だ。
理解してやっているのなら、スマートかも知れないし…
理解してないのだとすれば…
可愛い……かよ…♡
また、掻き乱される感覚だ。
彼はやっぱり、私の『ルトゥナ』…
運命の人なんだ。
そう感じた私とは裏腹に…
「おやすみ」と微笑み、私から離れていった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。