あの日、私は初めて一目惚れをした。
無造作にかき上げられたプラチナブロンドの髪。
まるでサファイアが埋め込まれているかのような、青く輝いている瞳。
スッと通った鼻筋に、知的な印象を与える尖った顎。
彼のすべてが私の心を掴んで離さなかった。
ここは大広間。
フローラが机の反対側で軽くこちらを睨んでいる。
ほんのり赤く色づいた唇を控え目に尖らせる彼女は、女の私でも惚れてしまいそうなくらい可愛らしい。
誤魔化すようにして綺麗に並べられた糖蜜パイの皿から小さいものを1つ取り微笑んでみせたが、彼の姿が頭から離れない。
ついフローラの奥にいる彼に視線が移る。
気づけばフローラは私の視線の先を追いかけ、スリザリンのテーブルを眺めていた。
フローラは少し迷っているような表情をした後、持っていたナイフとフォークを置き、上半身を机の上に乗り出すようにして顔を近づけてきた。
私は半純血だ。
父と母のことは覚えていないが、孤児院から私をホグワーツへと導いてくださったダンブルドア先生がそう言ったのだから、間違いはないだろう。
純血でなければ、純血至上主義のマルフォイには相手にしてもらえないかもしれない。
自然とそんな考えが頭の中に浮かび、胸がなにかに締め付けられるかのように苦しくなった。
いつの間にか私の隣に座っていたセドリックに、フローラが頬を赤らめる。
ハッフルパフ寮の4年生、セドリック・ディゴリー。
何故か入学当初から私達のことを気にかけてくれていて、とっても頼れる先輩だ。
談話室で話しかけてくれたり、課題を手伝ったりしてくれている。
"ハッフルパフの王子様"と呼ばれている彼は、勉強も運動も学年トップ、おまけに顔も性格も良い。
なんでも完璧にこなしてしまう彼にフローラは心を惹かれていると、彼女の様子見ていればすぐわかる。
なんでも話せる間柄だったセドリックとは先輩後輩という関係を超え、友達として仲良くしていた。
いや、友達以上かもしれない。まるでお兄ちゃんのように慕っている彼に、マルフォイへの恋心を知られた。
なんとも言えない恥ずかしさが一気に込み上げ、私はついセドリックから顔を背けた。
つい体に力が入り、持っていたフォークをぎゅっと握りしめた。
さっきまでの態度とはすっかり変わり、フローラは申し訳なさそうに俯いている。
子犬のようにちっちゃく丸まる彼女を見ていると、なんだかこちらの力も抜けてくる。
爽やかに手を振りながら去っていくセドリックを、フローラはとろんとした目で見つめている。
そんな他愛もない話をしているときだった。
もともと赤い頬をさらに赤く染めているフローラの後ろから、どこかで見たことがある男の子が、こちらへ近づいてきた。
誰だっけ、あの人。思い出せない…。
そんなことを考えていると、彼が話しかけてきた。
私の名前を知っている…??
私はそんなに有名人じゃないわ…。
フローラもきっと同じことを思っているはずだとフローラの方を向いたが、彼女は何かを知っているかのように目をぱちぱちとさせていた。
フローラとハリーはにこやかに握手を交わしている。
ハリー・ポッター…どこかで……
思い出した。ハリー・ポッター、彼は……!
その瞬間私はいてもたってもいられなくなり、食べかけの糖蜜パイを置き、立ち上がった。
叫んでいるフローラを無視し、私は談話室へと走った。
ごめんね、フローラ。
でも私はこれ以上あの場にはいられない。耐えられない。
久しぶりにこんなに走ったな…そんなことを考えながら、私はベッドへ倒れ込んだ。
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はじめまして、作者です(*´ `)
いつも小説は自分だけで楽しんでいるのですが、たまには公開してみるのもいいなぁと思い連載始めてみました!
ゆるゆる更新で続けていきたいと思いますので、末永くよろしくお願い致します☺︎
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。
登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。