第16話

寂しい右手
1,008
2020/05/15 13:28
いつもより静かな朝日を浴びながら、私は願いつつドアを開ける。
目の前にはすっからかんな道路のみ。
『…………はぁ』
昨日、なぜたか分からないけれど広人と喧嘩(?)した。
私のせい、らしい。
一生懸命考えても理由が思い当たらなくて、もしも奇跡が起きて今日もいつも通り広人が迎えに来てくれている、ことを願ったが虚しくそれは崩れ去った。
『(やっぱり自分で気づかないとか…、広人に聞くのはやっぱりダメってことだよね…)』
まだ肌寒さが残る四月の道を、一人手をふーふー暖めながら歩く。
さりげなくポケットに手を入れさせてくれる広人はいないから、←(どんな幼馴染みですかぁっ)ブレザーの袖を引っ張って中に手を入れた。いわゆる萌え袖だ。
「あっ」
団地に通りかかったとき、誰かに声をかけられた。
緑谷「色絵さん、おはよう」
『!緑谷くん…、おはよう』
緑谷くんの柔らかい笑顔に顔が緩んだ。
緑谷「今日は一人なの?」
いきなり核心をついてくる緑谷くん。
『うん…、拒否されちゃったかな』
緑谷「えっ?!あんなに仲良かったのに…」
『私が何かしちゃったみたい』
緑谷「そっか…、何があってそうなったの?」
『えっとね…カクカクシカジカ』
緑谷「な、なるほど…(絶対二人とも色絵さんのこと……いやそれよりも!)ごめん…、かっちゃんの機嫌が悪くなったの、多分僕のせいだ」
『えっ?どうして?』
緑谷「昨日…、まぁ色々あったんだけど、これはかっちゃんの口からでないと…」
『あっ、そうだよね!でも気にしなくて良いよ、結局怒らせたのは私だもん。ありがとね』
緑谷「力になれなくてごめんね」
『緑谷くんがそばにいてくれるだけで心強いよ!ありがとう』
にっこり笑いかけると、
緑谷「そっ!そそそそんなことは……!!」
と凄い勢いで駅の方へ行ってしまったので、私は慌てて『待って~!』と追いかけた。
緑谷くんは、私の左側を歩く。
いつも誰かさんのポケットに入っている右手は、
今日は春の初めの冷たい風ですぅすぅ寂しくて、
知らない間にピンク色にかじかんでいた。

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