第37話

敵情視察…?!
620
2020/06/08 23:55
『てっ…敵情視察…?!』
学校に来た私は、昨日に続く大声で叫んだ。
水沢「ちょっとあなた、声が大きい!」
『ご、ごめん…それで、心操くんが1Aに行くの?』
和香「心操くんだけじゃないよ。蘭竜くんも、角田くんも、恋天ちゃんも…とにかく、みんな行くって!」
『そうなんだ…どうして?』
私が二人に聞くと、二人は「は?」とでも言うような、間の抜けた顔をした。
水沢「決まってるじゃん。敵襲撃を跳ね返した超人達を見に行きたいんだよ。」
和香「体育祭の相手だからとかじゃなくて、興味があるんだよね」
『え、二人とも行くの?優ちゃんは以前会ったよね?』
和香「でも、今度はあの人に怯えずに色んな人を見てみたくて…」
……爆豪くんか。
水沢「私も見てみたいから行くけど、あんたはどうすんの?」
『えぇ…』
『二人が行くんなら、私も行こうかなぁ…』
───────
水沢「うわ…混んでるね」
『ホントだね』
和香「1Aの人達見られるところまで行けるかなぁ…」
泉ちゃんと優ちゃんが人団子の中に入っていったとき。
ガラリ
「何ごとだあ!!!?」
1Aのドアが開き、麗日さんの声が響いた。
ザワザワという敵情視察組の声に紛れて幾つか1Aの人の会話が途切れ途切れ聞こえたあと。
「意味ねぇからどけモブども」
『ばっ…』
爆豪くん…
これだけ聞いていたら1Aほんとヤバい人達みたいだよ?!大丈夫なの?!
そう思った瞬間、聞き慣れた声が聞こえた。
「どんなもんかと見に来たがずいぶん偉そうだなぁ」
「ヒーロー科に在籍する奴は皆こんななのかい?」
………………心操くん……
だめだもう聞きたくない…酷い状況だこれは…
そう思って、耳を塞いで、他の人…心操くんの声さえもシャットアウトしていた、のに。
「上にあがりゃ関係ねぇ」
その声だけは、私の耳にまっすぐ届いた。
その、自信満々な響きは。
まるで…
「昔の、私だ」
───────
家に帰って、爆豪くんから貰った紙に書かれていたトレーニングメニューをどうにかこなしながら、私は自分の過去を思い出していた。
小学校から、私立の中学校に上がったころ。
まだ私は、昔のまんまだった。
「───ちゃんには、関係ないでしょ」
そんな風に、思ったことを言えるような。
(私は絵を描くことだけは誰にも負けない)
そんな風に、思っていられるような。
強気な子だった。生まれてからずっと、“一番”だった私は、本当に輝いていた、と思う。
つまらないことなのだ。
私がこんな、“普通”な子になってしまったのは、本当によくあることなのだ。
中学校は、もし共学の御三家があれば、三本の指に入るくらいのレベルだった。
その中で、私は…良くも悪くもない、真ん中の成績だった。
その時も気付いていたけれど、その学校にいた子達はきっと、基の能力はほぼ等しいのだ。
成績や点数を変えるのは、努力の数だけ。
私は勉強が真ん中なのはとくに気にしなかった。上もいれば、下もいる。そんなのは、塾に通っているころから慣れっこだから。
………でも。
「わあ、───ちゃん、絵、本当に上手いね!」
「ねぇ、今度◯◯に使う絵、描いてくれない?」
「この子、すごく可愛いなぁ…!」
『………ホントだね』
絵だけは、負けたくなかった。
今まで、ずっとずっと、描き続けてきた絵だけは。
負けたくなかった。───なのに。
私はその子に叶わなかった。
何をしても一番になれない。
勉強でも、ピアノでも、習字でも、お話を作るのでも、友達の多さでも、自分の輝き具合でも。
たとえ絵でも、一番になれない。
母はそれが、普通だと言った。
普通になんてなりたくなかった。
いつしか私は、本当に普通の子になっていた。
強気にもなれず、輝いてもいなくて、いてもいなくても変わらないような。
昔の、“普通じゃない”私は、もうどこにも、いないのかもしれない。
─────これは。
つまらないことなのだ
本当に……よくあること、なのだ────
それが、どうしようもなく辛かった

プリ小説オーディオドラマ