第32話

ヒーロー。
892
2020/01/25 10:48
___助けて、ヒー…ロ…
痛みに身を縮こませると、もっと傷が痛んで、
ガクンと意識レベルが下がる。
もう私死ぬのかな。
そう思って力を抜いたとき、
「大丈夫か?!」
という声と共に、 
黄色い頭が見えて、
私に乗っかっている岩が崩れた。
その大きな音で私は少し意識を取り戻し、うっすらと目を開ける。
「お前、怪我してんじゃん!!これ訓練じゃねーの?!」
『っ…、かみな…く、じ…さ…』
耳郎「バカ、喋らせないの上鳴!色絵さんも、いいから!何かあったんでしょ?とにかく保健室運ぶよ!」
上鳴「うぇい!痛かったらごめんな!」
膝裏とうなじに手が回って、ふわりと持ち上げられた。
脱力したせいで、腕や足が下に垂れ下がる。
上鳴「軽っ、ってお前血!めっちゃ出てんぞ!」
『(……血……?)』
自分のジャージが真っ赤に染まっているのに気付き、ひゅっと喉が音を立てる。
耳郎「隠れたとき建物が崩れたのか…、ウチ、先生に報告してくる!」
上鳴「おう!」
耳郎さんが走って行くのが見えて気が緩んだのか、全身の傷がズキンと痛む。
『ぅ……』
上鳴「痛いのか?あっ、喋らせたらいけねーんだった!」
なんて言えばいいかわからないと言った様子の上鳴くんはパッと私に目を戻した途端、ハッとしたように口を開いた。





『色絵、大丈夫だぜ!俺いるかんな!』





太陽みたいな笑顔。
心臓らへんが、傷よりもズキンと痛む。
一瞬痛みを、忘れた。
『___っ__!』
ほろり、温かい何かが頬を伝って、私は。
痛いはずなのに、そんなのもう関係なくて。
『上鳴くん…、ありが、とう』
頬が緩む感覚。
上鳴くんは、驚いたように目を開いて、「人生最後は笑うみたいな感じ出すなよ!!」と言いながら走って私を運んでくれて、道中に会ったA組の皆に説明してくれて、私にずっと大丈夫、大丈夫と声をかけてくれた。
もう大丈夫だ、と思った。
ヒーローが来てくれた、と思った。
そう思うと何だか安心して、
私は静かに目を閉じて眠ってしまった。

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