そろそろいいか。
私は時間を確認した。
もう、朝昼晩なんて規則はこの日本から消え去った。
その原因は分かってる。
私だ…。
後悔しても、もう遅いけどさ。
私は、上空に行った。
そして、大きく息を吸ってから、私は言った。
『今から、三分の休憩をとる。』
こんなこと、私の時は無かった。
そう、このルールは私が作った。
こんなルール作っても、意味が無いと分かっている。
けど、少しの間だけでも安心感を与えたかった。
誰も追ってこないという安心感を。
でも、安心出来ない人がほとんどかな。
そんな気がした。
このルールを作ったもう一つの理由がある。
長時間逃げ回るなんて不可能だ。
体力的にキツイ。
その辛さは充分に分かる。
なぜなら、経験をしたから。
これがもう一つの理由。
その時、ピエロが私の所へ来た。
休憩の時は、私の所へ来るように命じといた。
残りは、一分程か。
そう確認すると、私は言い始めた。
『イタズラだと思っている者はまだ、居るのかぁ?居ないと思うけどな。新しいルールを教えておいてやる。有難く思うんだな!死んだ者はゾンビになる。そのゾンビも、もちろん鬼だ。噛まれたら、お前もゾンビになる!これ以上は教えない!こんなにも教えてくれたことに感謝するんだな!さー、あと十秒だ。五秒。三、二、一、再開だ!』
ゾンビの見た目は教えなかった。
いや、教えられなかった。
もう一人の私が言わせてくれなかったから。
『早く死んでよ…』
呟くように私が言った。
私の意思じゃない。
意識が遠くなっていく。
もう一人の私に意識が取られていっているんだ。
私は、負けないように頑張った。
そのおかげで少しは残った。
ほんの少しだけだけど…。
完全に乗っ取られてしまうともう、もう一人の私の思うままにされてしまう。
それだけは、避けたい。
『おい!ピエロ、まだ行かないのか?』
再開したというのに、動いてねえじゃねえか。
『命じられてませんので。』
あー、そうか。
休憩の時に来いとは言ったが、その後のことを命じてなかったな。
『殺しに行ってこい!』
そう私は命じた。
『はい。殺して来ます。』
私の方へ向き、にやりと笑いながら言ってきた。
気持ちわるい奴だ。
はぁー、まだかな。
早く見たいな。
逃げ回る時の恐怖の顔を絶望の顔を早く見たい!
そう思いながら、私は地上へ向かった。
着いた途端、ある人を見つけた。
私の大切な家族だ。
でも、そんなこと知らないもう一人の私がにやりと笑って呟いた。
『獲物発見。準備運動のついでに殺してやろうじゃねえか。』
私は、急いで意識を取り戻そうとした。
でも、気づいたんだ。
そのやり方が分からないことに。
このままじゃ、私の家族がまた、殺されてしまう…!
そんなの嫌だ!
絶対に殺させはしない。
残り一人の私の大切な家族を、お父さんを守ってみせるんだ。
だが、次の瞬間、絶望した。
刃物で後ろからお父さんの心臓を刺してしまった。
死んでしまった。
また、私のせいだ…!
『あははははっ!あははっ!』
私は高笑いをした。
何で、何で、何で!
お父さんが死んだというのに、私は笑ってるだっ…!
自分が許せない。
例え、自分の意思じゃなかったとしても、私の手で殺した事は変わらない。
でも、結局はお父さんも皆、いつかは死んでいくんだよね。
お父さんもお母さんもそれが早かっただけなんだよ。
もう大切な人なんて、家族よりも大切な人なんて居ない。
いっそ、こんな感情捨ててしまおう。
いや、捨ててしまってはダメだ。
なら、全てが終わるまで、こんな感情を封印しよう。
それなら、大丈夫だ。
結局、ヒーローは現れなかった。
私の願いは何一つ叶えてくれない。
ひどいなぁ、神様は。
でも、しょうがないか。
悪い事しちゃっているからさ。
許されないこと、もう元通りに戻らないことをしてしまっているんだから。
これから、ヒーローが現れるのかな?
現れるなら、早く現れて欲しい。
そして、私を殺してくれれば、何もかもが終わるかもしれない。
私を殺せば、私よりも強い人なんて居ないから大丈夫だ。
犠牲が増える前に現れて、世界を救って欲しい。
この願いだけは、どうか叶えてよ、お願いだから。
そう願ったんだ、最後に。
もう願い事なんてしない。
しないから、最後の願いだけは叶えてほしい。
そうしているうちに、意識を取り戻せていた。
何故だか、分からない。
私は、お父さんをゾンビにした後、その場をすぐに去って行った。
ゾンビになって歩いて行くお父さんを見たくなかった。
見てしまうと、透明なものが溢れてきてしまうから。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!