ユウトは何も警戒せず、ゆっくりと歩いた。
全ての感情を隠して……。
少し歩いてユウトは後ろを振り向いた。
『進んでない……』
数歩歩けば、また同じ場所に戻される。
その繰り返しだ。
まるで、誰かに"行くな"と止められているように……。
それでも、ユウトは諦めずに歩いた。
十分経って、ユウトは座り込んだ。
『誰だ……?』
どこからか、睨まれている気配がした。
唯一の希望まで奪われてしまった。
もういいか……。
『誰かそこに居るんだろ?俺を殺したいなら殺せばいい』
ユウトが放った言葉に恐怖は感じなかった。
『お前のせいで僕のお母さんと妹が死んだ!何で、何で守ってくれなかったんだ!!!』
崩れかけているビルの上に少年が立っていた。
『憎いなら、俺を殺せばいいだろ……』
ここで死ねるのかな……。
いや、殺してくれない気がするな…。
『僕はそんな事出来ない!だからもういいよ…でも、覚えとけ!僕は生まれ変わってもお前を許さない!』
そう呟くと、少年は飛び降りた。
俺は咄嗟に少年を助けようとしたが……
『ヒーローなんて居ないんだ……』
その言葉を聞くと、何故か動けなくなってしまった。
『ごめん……』
俺はそう呟き、瞼を下ろした。
その瞬間、大きな音が聞こえた。
辺りが静まり、俺はゆっくりを瞼を持ち上げた。
『これで良いんだ……きっと……誰かがこの世界救ってくれる……』
俺は自分に何度も言い聞かせた。
その後、俺は少年を小さな女の子とそのお母さんの隣に静かに移動させた。
そして、俺は振り返った。
『今度は誰だ?俺を殺してくれるのか?』
ユウトが振り返った先には、少女がいた。
その少女は藍に似ていた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!