第21話

クロの強さ
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2018/10/21 10:35
どこを見ても真っ赤な血の海が目に映る。











たった数秒、それだけの出来事だった。













何故か皆、クロからの攻撃を避けなかった。











いや、避けることが出来なかったのだろう。











俺にだけしか、クロが見えていなかったのだから。











それなのに俺は……皆を助けることが出来なかった。











不可能だったんだ。












クロは化け物だ!












『さぁ、戦争を始めよう!この声と姿はユウト、君だけに聞こえるし、見える。最後に殺してあげるから大人しく待ってろよ?』













クロの顔を見た時、俺は背中がゾッとした。













俺はすぐに目を逸らした。












その瞬間、クロは俺の周りに居る人を殺し始めた。












俺は一度、迷いながらも止めようとした。












けど、無理だった。






クロの動きが速すぎたのだ。








目が追いつけなかった。









クロはもう人では無い何かだ。







周りの人は一欠片も無く、消えていった。















俺は見てる事だけしか出来なかった自分を憎んだ。











何で俺はこんなに弱いんだ!









俺は自分に文句を言った。









助けたいのに助けることが出来ない。









人が消えていく姿を見るのはつらい。









何も出来ないのもつらい。












そんな時、俺は同い年ぐらいの女の子と目が合った。













女の子は「助けて!」と短く叫んだ。











だが、その瞬間に消えてしまった。













人が消えていく現象に怖くなったのか、逃げ出す者が数名居た。














だが、クロは逃げる事を許さなかった。













クロは逃げようとする者を優先的に殺していった。












三十秒程で、俺の周りに人は居なくなってしまった。












たった三十秒、その時間が俺には長く感じた。












そして、遂には二人きりになってしまった。













『お待たせ、ユウト!』







血に染ったクロが悪魔のような笑顔で言ってきた。














俺は微かに震えていた。













地面には、血の海が出来ていた。














死体は残らなくても、出血した血は残っている。













その血からは、声が聞こえてきた。









助けて……!助けて……!助けてよ……!







色んな人の声が混ざっている。








この世界を救うと決めたのに……俺は人でさえ守れていない。











俺には無理なのか……。








俺には世界を救うことは出来ない。













何人も見殺しにしたんだ。












俺はもう……ヒーローになれない。










俺が一度リラックスしようと全身の力を弱めた瞬間、自分の手から剣が消えた。














いや、消えてはないか。








クロに奪われてしまったのだ。













『これで君さ、敗北決定だね!じゃあね、ユウト』















その言葉の後でお腹が熱くなった。













自分のお腹には藍から貰った剣が刺さっていた。










負けるな、ユウト!








藍の声が聞こえる。














これは俺の幻聴なのか?











剣を抜いて戦え!あんたが居なくなったら、この世界は終わるよ!それでもいいの?




また藍の声だ……。










『そんな事はさせたくない!……でも、俺は見殺しにしてしまった。俺にはそんな資格もう……』











あるよ!起きてしまったことは巻き戻し出来ない。だから!もう二度とそれを繰り返さないようにするんだよ!











二度と繰り返さないように、か。










そうだよな、ここでくたばってちゃ駄目だ。











『クロー!待て!お前の好きにはさせない!』









俺は力を振り絞って叫んだ。







『あは、あははははっ!』










クロは高笑いをした。











『つまんなーい!』









クロは去っていこうとしていた。










止めなければ、そう分かっているのに身体が思うように動かない。














俺はだんだんと視界が真っ暗になっていった。




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