どこを見ても真っ赤な血の海が目に映る。
たった数秒、それだけの出来事だった。
何故か皆、クロからの攻撃を避けなかった。
いや、避けることが出来なかったのだろう。
俺にだけしか、クロが見えていなかったのだから。
それなのに俺は……皆を助けることが出来なかった。
不可能だったんだ。
クロは化け物だ!
『さぁ、戦争を始めよう!この声と姿はユウト、君だけに聞こえるし、見える。最後に殺してあげるから大人しく待ってろよ?』
クロの顔を見た時、俺は背中がゾッとした。
俺はすぐに目を逸らした。
その瞬間、クロは俺の周りに居る人を殺し始めた。
俺は一度、迷いながらも止めようとした。
けど、無理だった。
クロの動きが速すぎたのだ。
目が追いつけなかった。
クロはもう人では無い何かだ。
周りの人は一欠片も無く、消えていった。
俺は見てる事だけしか出来なかった自分を憎んだ。
何で俺はこんなに弱いんだ!
俺は自分に文句を言った。
助けたいのに助けることが出来ない。
人が消えていく姿を見るのはつらい。
何も出来ないのもつらい。
そんな時、俺は同い年ぐらいの女の子と目が合った。
女の子は「助けて!」と短く叫んだ。
だが、その瞬間に消えてしまった。
人が消えていく現象に怖くなったのか、逃げ出す者が数名居た。
だが、クロは逃げる事を許さなかった。
クロは逃げようとする者を優先的に殺していった。
三十秒程で、俺の周りに人は居なくなってしまった。
たった三十秒、その時間が俺には長く感じた。
そして、遂には二人きりになってしまった。
『お待たせ、ユウト!』
血に染ったクロが悪魔のような笑顔で言ってきた。
俺は微かに震えていた。
地面には、血の海が出来ていた。
死体は残らなくても、出血した血は残っている。
その血からは、声が聞こえてきた。
助けて……!助けて……!助けてよ……!
色んな人の声が混ざっている。
この世界を救うと決めたのに……俺は人でさえ守れていない。
俺には無理なのか……。
俺には世界を救うことは出来ない。
何人も見殺しにしたんだ。
俺はもう……ヒーローになれない。
俺が一度リラックスしようと全身の力を弱めた瞬間、自分の手から剣が消えた。
いや、消えてはないか。
クロに奪われてしまったのだ。
『これで君さ、敗北決定だね!じゃあね、ユウト』
その言葉の後でお腹が熱くなった。
自分のお腹には藍から貰った剣が刺さっていた。
負けるな、ユウト!
藍の声が聞こえる。
これは俺の幻聴なのか?
剣を抜いて戦え!あんたが居なくなったら、この世界は終わるよ!それでもいいの?
また藍の声だ……。
『そんな事はさせたくない!……でも、俺は見殺しにしてしまった。俺にはそんな資格もう……』
あるよ!起きてしまったことは巻き戻し出来ない。だから!もう二度とそれを繰り返さないようにするんだよ!
二度と繰り返さないように、か。
そうだよな、ここでくたばってちゃ駄目だ。
『クロー!待て!お前の好きにはさせない!』
俺は力を振り絞って叫んだ。
『あは、あははははっ!』
クロは高笑いをした。
『つまんなーい!』
クロは去っていこうとしていた。
止めなければ、そう分かっているのに身体が思うように動かない。
俺はだんだんと視界が真っ暗になっていった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。