💙 リク 🔪
夜道を走りながら、自身の右手につけてある腕時計を見ると、時刻は
『21:00』
を刺している。
どうせ急ごうと無駄だが、もっと遅くなると何をされるか分からない。
彼が怖い。でも、逃げられない。
私は、更にスピードを上げて、彼が待つ自宅に足を進めた。
自宅の扉の前で、ゆっくり息を整える。
こんな息切れの状態では、急いで帰って来た、と見せつける様になる。それは彼にとっては不機嫌の調味料。
前、同じような事があった。彼からの着信も全部無視して、全速力で家に帰った。そうすれば許してもらえる、なんて思っていたから。
「電話も出ない。メールも返事がない。…しかも、こんな時間。なにしてたの?」
『…っい、急いで帰って来たから許して…っ』
「…は?」
そういうと、彼は私に近付いてきて、
「"急いで帰ってきた"?約束の時間はとっくに過ぎてるでしょ。なんの言い訳?それで許してもらえると思ったの?…っていうか、その息切れも。なんのアピール?」
私を見る彼の目は、光がなかった。
ドアの前で拳を握って、気合いを入れる。
彼の前で脅えて逃げ出さないように。万が一、『別れたい』なんて口に出さないように。
──私は、普通の恋愛がしたかったのに。
家に響くように、大きな声で言ってみたが、物音一つしない。
前は玄関で座って待っていたのに…不思議に思いながら靴を脱いで、リビングに行く。
周りを見渡しても、あの青髪は何処にも見えなかった。
彼の部屋の前に立つ。コンコン、とノックをしてみる。
……
無反応。…静か過ぎて少し怖い。と思いながら、ドアを開ける。本当は、入っちゃいけないけど…
次の瞬間、私の目は、とんでもないものを捉えた。
手錠、首輪、大人の玩具…そして、壁一面に貼られた私の写真。一枚一枚場面が違う。
震える手で、一番手元にある自分の写真を取る。
なんでこの写真がここにあるの…?
よくよく見ると、
それは窓越しに撮られていた。
声のした方向を見ると、首輪と、見たことのない機械を持って笑う彼が居た。
笑顔を絶やさず、ジリジリと近付いてくる彼。
私は反射的に後ずさる。
トンッ、と肩を押されて布団に倒れ込む。
自分の頭が早く逃げろ、と叫んでる。でも、足が言う事を聞いてくない。立ち上がって、走る事が出来ない。さっきまであんなに走っていたのに。
どうする事も出来ず、ただ彼の事を見つめていた。すると、
と言って、笑う。
予想外の言葉に、心臓の音が静かになっていく。
その言葉にどんなに安心させられたか。自分でも驚くほど、安心していた。
だから、油断していたんだ。気付いていたのに。
彼の手にあったものに。
ピリッ
そこで、私の意識は途絶えた。
眠った彼女をそっと抱き締める。
僕の可愛いお姫様。
もうお仕置きは必要ないね。だって、
これからはずぅーっと一緒なんだから♡
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。