『さよなら。私の大好きなひと。』
それだけで、充分だった。
言えた。ちゃんとお別れできた。
それだけで、良かった。
なのに、やっぱり君はずるい。
え...?
梓は俯く。
本当は、嬉しさでどうにかなりそうな手を、ぎゅっと押さえる。
梓はそう言って、腕を広げた。
「抱きついて。」
そう、言ってる。
私は梓の腕の中に入る。
──────温かい。
すると、自然と涙がでてくる。
嗚咽を必死に堪える。
──────私、泣き虫になったなぁ。
梓は何度も謝りながら、私の頭を撫でる。
──────何か、安心する。
私は、涙目で梓を見上げた。
そして...
ちゅっ...
私はそう言って笑う。
梓は、少し戸惑ってから、
と言って、にかっと笑った。
やっぱり君はずるい。
その笑顔で、どんなときでも幸せに感じてしまう。
二人して、赤くなってしまう。
それでも、幸せ。
ちゅっ...
私がそう言うと、梓が笑う。
それにつられて、私も笑う。
君が私の隣にいる。
それが、私にとっての幸せだ。
*END*
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。