第18話

届かない。④
265
2019/03/05 15:27
急に、碧衣という人が俺の病室から飛び出した。
保坂 恵麻
保坂 恵麻
碧衣!!まって!
そんな、恵麻の声も無視して出て行ってしまった。
鮫島 梓
鮫島 梓
え、あの人どうしたんだろ...
俺がそう言うと、恵麻が俺が座っているベッドの
前まで近付いてきた。
鮫島 梓
鮫島 梓
どうした?恵麻。
恵麻は突然、手を上げた。

そして...





バチン!





俺の頬を、強く叩いた。
鮫島 梓
鮫島 梓
いった...
鮫島 梓
鮫島 梓
何す....
保坂 恵麻
保坂 恵麻
最ッ低。
恵麻はそれだけ俺に告げて、碧衣という人を
追いかけていった。


恵麻の目には涙が浮かんでいた。

拳をぎゅっと握って何かを堪えているようだった。
九条 愛里
九条 愛里
うっわ。逃げた。
九条はそう言って笑った。


そこで、「あれっ?」と思う。

「俺の好きな人は、人のことを笑うような人
じゃなかったよな?」と。
鮫島 梓
鮫島 梓
な、なぁ、くじょ....





ドンッ!





突然、壁を叩く音がした。


音の聞こえる方を見ると、そこには立夏がいた。

滅多に怒らない立夏が、怒っているように見えた。
渡邉 立夏
渡邉 立夏
......て。
九条 愛里
九条 愛里
は?何言って...
渡邉 立夏
渡邉 立夏
出て行ってよ!!
九条 愛里
九条 愛里
え...
渡邉 立夏
渡邉 立夏
僕、聞いたよ?
渡邉 立夏
渡邉 立夏
九条さんが碧衣を階段から
突き落としたこと。
渡邉 立夏
渡邉 立夏
それに、恵麻に酷いことしてたって
ことも。
渡邉 立夏
渡邉 立夏
全部、全部、聞いた。
渡邉 立夏
渡邉 立夏
なのに!
渡邉 立夏
渡邉 立夏
そんな酷いことして、それに加えて
梓に嘘をつくなんて、ありえないよ!
渡邉 立夏
渡邉 立夏
碧衣がどんだけ傷付いてると
思ってんの!?
渡邉 立夏
渡邉 立夏
人をそんなに傷付けて楽しい!?
渡邉 立夏
渡邉 立夏
そんなの、おかしいよ!!
立夏は、声を荒げた。

俺はただ、呆然と立夏を見ていた。


あの、立夏が。

滅多に怒らない、大人しい立夏が。


声を荒げて怒った。

本気で怒った。


あの、立夏が。
九条 愛里
九条 愛里
は?何言って...
渡邉 立夏
渡邉 立夏
良いから出てけ!!!
今までで1番、大きな声だった。

もう、俺は何も言えなかった。


立夏の迫力に、押された。
九条 愛里
九条 愛里
わ、わかったわよ...
九条さんはそう言って、悔しそうに病室から
出て行った。





そこから、少しの沈黙が続いた。




俺は、その沈黙を壊せないでいた。







すると、立夏が話し出した。
渡邉 立夏
渡邉 立夏
梓も、梓だよ...。
え...?
渡邉 立夏
渡邉 立夏
酷いよ。
渡邉 立夏
渡邉 立夏
記憶がないからって、さすがに
これは酷すぎるよ...。
渡邉 立夏
渡邉 立夏
せっかく、気持ちが届いたって碧衣が
可愛く笑ってたのに。
渡邉 立夏
渡邉 立夏
全部、全部、ぶち壊されちゃった。
渡邉 立夏
渡邉 立夏
ねぇ、早く思い出してよ。
渡邉 立夏
渡邉 立夏
碧衣の名前、碧衣の笑顔、碧衣との
思い出...
渡邉 立夏
渡邉 立夏
碧衣への、「好き」って気持ち。
渡邉 立夏
渡邉 立夏
お願いだから。お願いだから、
思い出してよ...。
渡邉 立夏
渡邉 立夏
もう、碧衣のあんな顔見たくない。
立夏は自分の制服のズボンをぎゅっと握った。


恵麻と、同じだ。

何かを堪えている。


恵麻と立夏は、今どんな気持ちでいるのだろう。
渡邉 立夏
渡邉 立夏
ねぇ、梓。
鮫島 梓
鮫島 梓
...?
渡邉 立夏
渡邉 立夏
追いかけて。
え...?
渡邉 立夏
渡邉 立夏
碧衣を、追いかけて。
渡邉 立夏
渡邉 立夏
このままじゃ、もう二度と碧衣は
帰ってこないよ?
渡邉 立夏
渡邉 立夏
梓が、心から愛していた女の子が
自分の目の前から消えちゃうよ?
渡邉 立夏
渡邉 立夏
早く、早く、追いかけて。
渡邉 立夏
渡邉 立夏
そして、思い出して。
渡邉 立夏
渡邉 立夏
じゃないと、許さないから。
立夏の顔は真剣だった。


もし、立夏の言うことが正しければ、俺はとんでも
なく酷いことをした。





いや、「もし」じゃない。

立夏は嘘をつかないって知ってる。




だから、俺は...

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