第30話

第21章「すれ違い」
83
2022/05/24 08:47
地下室にて
狂神 アレク
「なるほど、このレベルになると魅了の香水じゃ効果が出ないとね……
なるほどなるほど……」
お兄ちゃんがそう言いながらメモをしている
私は先程までお兄ちゃんの『魅了の香水』の実験に付き合っていた
取り敢えず恥ずかしい事があったので何をしていたのかは省略しよう
リィナ・スカーレット
「むぅ、お兄ちゃんも怒るよー?」
直後、私は気分が悪くなってしまい顔を顰めて口元を抑える
狂神 アレク
「ッ!?
どうした!?」
お兄ちゃんメモの紙を放り投げて駆け寄ってくる
リィナ・スカーレット
「だいじょー………」
少し気分が悪くなってしまっただけだし、少し休めば回復するだろう
狂神 アレク
「大丈夫では無いよな」
珍しく真面目な声色で言うお兄ちゃん
リィナ・スカーレット
「っ…………」
何で………バレるの………?
狂神 アレク
「どうした、言ってみな」
真剣な眼差しでじっと見つめてくるお兄ちゃん
リィナ・スカーレット
「………………ここ最近、全然寝れてないの」
狂神 アレク
「寝不足か……そりゃまた何故?」
リィナ・スカーレット
「………怖い夢を見るの」
あの日……『スー姉達が死んでしまった日』の夢では無い

その夢も偶に見るが今は違う
狂神 アレク
「怖い夢……その話、詳しく聞かせてもらおうか」
リィナ・スカーレット
「…………」
私は体育座りをし、顔を膝に埋めると首を横に振る
夢の内容は話せない
話すのが怖い  ・   ・から
狂神 アレク
「…………なるほど
……あー、刀々神、ボクだよ
ちょっち地下室来てくんねぇかな、急患だよ
ボクの専門外だからね、刀々神の得意分野だよ
……じゃ、すぐ来てくれよ」
小型通信装置で会話しているお兄ちゃん
リィナ・スカーレット
「………………」
私は顔を膝に埋めたままだった
刀々神 海燕
「なんだ?急に……
……って、リィナ、どうした?」
傍に駆け寄ってくるカイ兄
リィナ・スカーレット
「…………カイ、兄……?」
私は微かに顔を上げる
どうして此処に………?
刀々神 海燕
「随分と怯えた顔をしているが…………
そういう事か……アレクの専門外、つまり精神的な問題って訳だね……
……アレク曰く、夢がなんたらって……」
リィナ・スカーレット
「……………コク」
私は小さく頷く
刀々神 海燕
「……詳しく聞かせて貰えないかい?」
リィナ・スカーレット
「……………」
私は微かに首を横に振る
刀々神 海燕
「……言えないのかい?」
リィナ・スカーレット
「‥‥‥‥……………コク」
私は再び膝に顔を埋めながら頷いた
刀々神 海燕
「それは……何故?」
リィナ・スカーレット
「それ、は…………」
私が言い淀んでいるとその場にトントンというノックの音が響いた
狂神 アレク
「誰だ!!!!
ボクの地下研究室に勝手に入っていいのはボクが許可した者だけ………………」
刀々神 海燕
「待てアレク……
誰だか分からないが、入っていいぞ」
すると扉が開き、リィーシェが申し訳なさそうに顔を覗かせた
リィーシェ・スプラウト
「すみません………悪いとは思ったのですが話があったので」
狂神 アレク
「お前……ボクが虎鐘に取り込まれてる時に居た…………」
刀々神 海燕
「リィーシェか……話とは?」
リィーシェ・スプラウト
「出来れば二人だけに」
リィーシェは一瞬こちらをチラリと見る
刀々神 海燕
「…………………………」
狂神 アレク
「なんだ?ボクらを蚊帳の外に追い出そうと?」
リィーシェ・スプラウト
「蚊帳の外というか………これは僕とリィナの契約に関係しているものと言っても過言じゃない。余り他言したく無いだけ」
契約内容に関するもの?
一体なんなのだろう
刀々神 海燕
「…………だが私らだって……」
崩神 一斗
「お前らの気持ちもよく分かる、確かに刀々神はリィナと契りを交わし、狂神はリィナと血が繋がっている
だが……今はお前らが関わる場面ではない
そうだろう?」
刀々神 海燕
「…………」
狂神 アレク
「チッ、わーったよ!!」
そう言って三人は地下室から出て行った
三人が出て行き、足音が遠ざかったところでリィーシェが私の名前を呼んだ
リィーシェ・スプラウト
「………………リィナ」
だけど私の言いたい事は決まっていた
リィナ・スカーレット
「……リィーシェ、お願い」
リィーシェ・スプラウト
「…………?」
リィナ・スカーレット
「私をーーー」
そこまで言った時、リィーシェが私の台詞を遮り言った
リィーシェ・スプラウト
「『殺して』とか言ったら怒るよ」
リィナ・スカーレット
「…!!」
分かっていたのだ
リィーシェは私が何を言いたいのか
リィーシェ・スプラウト
「眠れないからって睡眠薬を飲みすぎ、倒れたらどうするつもりだったの?」
リィナ・スカーレット
「……………っ」
私は別に倒れても良いと思った
だけど寝ないと心配されるから


だから私は睡眠薬を大量に摂取し、無理矢理にでも寝ようとしたのだ
リィーシェ・スプラウト
「……………あの時の、暗殺の時の夢を見るんだよね?」
リィナ・スカーレット
「!!」
リィーシェぎ話そうと口を開いた時、上の階から怒声が聞こえて来た
声で『カイ兄』だという事が分かった
リィーシェは微かに顔を顰めると再び話し始めた
リィーシェ・スプラウト
「リィナ、海燕さんに話さないの………?」
リィナ・スカーレット
「……………しょ」
リィーシェ・スプラウト
「?」
リィナ・スカーレット
「話せるわけ無いでしょう!?」
あの事  ・   ・   ・ を話せば恐らく皆私の周りから離れていく
私はそれが怖いのだ
今のこの幸せの日々が終わってしまうのが
リィーシェ・スプラウト
「…………はぁ、リィナ。手出して」
リィナ・スカーレット
「…………?」
私は恐る恐る手を出す
リィーシェ・スプラウト
「…………」
リィーシェは私の手を取ると、とある魔法を発動させる
リィナ・スカーレット
「…………言えないよ」
私はその魔法を見ながら心境を吐露していく
リィーシェ・スプラウト
「……………」
リィナ・スカーレット
「これ以上カイ兄を苦しめさせたく無いのに、私が元暗殺者だって知ったらカイ兄は……!」
リィーシェ・スプラウト
「……………」
この大切な日常が崩れるのが怖いんだよ………………
リィナ・スカーレット
「………………怖いよ」
リィーシェ・スプラウト
「………うん。何かあったらすぐに教えてくれれば私も力になれるものは力になるよ」
リィーシェは私の手をそっと握るとそう言った
リィナ・スカーレット
「ありがと」
そう言った直後、睡魔が襲って来て私は意識を手放した
…………………………
話し声が聞こえて私は目を覚ます


話し声の一番最初に聞こえた台詞は
リィーシェ・スプラウト
「あれ、海燕さん何処か行ったんですか?」
というものだった
カイ兄が居ない…………?
狂神 アレク
「あー、刀々神ならどっか飛び出してったよ」
バツが悪そうにお兄ちゃんはそう言った
リィナ・スカーレット
「カイ兄が……………?」
さっき怒声が聞こえたけれどそれが関係あるのだろうか
リィーシェ・スプラウト
「……………」
狂神 アレク
「ちなみに、何処行ったかは検討つかずだぜ
まぁいずれ戻ってくるっしょ」
私は少し迷ったがすぐに決める
リィナ・スカーレット
「………私、探してくる」
リィーシェ・スプラウト
「!?」
リィーシェが目を見開いたのが分かった
それ程に驚いているのだ
狂神 アレク
「バカか!?
何処に居るか分からん奴を探そうだなんて、無理な話だぞ!?」
リィナ・スカーレット
「それでも、です」
心配なのだ
きっと私のせいでカイ兄を傷つけてしまったのだろうから
崩神 一斗
「…………なら、アイツの居場所を教えてやるよ」
狂神 アレク
「お前、分かるのか?」
崩神 一斗
「あぁ、ただし条件がある
……リィナ、絶対に自分自身を責めるな
それが守れないんなら、居場所を教える事は出来ない」
『自分自身を責めるな』
最も私がやりそうな事をよく分かってるようで
でも、今は自分自身を責めてられない
リィナ・スカーレット
「………分かりました」
崩神 一斗
「…………お前は覚えて無いだろうが、お前は昔、刀々神と出会っている
刀々神の記憶も混濁しているが、俺はしっかり覚えているぞ
リィナと、キミの兄、ラズは、昔死にかけていたところを刀々神 海燕に助けられているのだ
……お前らが以前死にかけた所、覚えているか?」
リィナ・スカーレット
「私とラズ兄が死にかけた場所……………」
私とラズ兄が死にかけた場所は私が覚えている限り二つ


そしてその内の一つは写真があった筈だ
崩神 一斗
「思い出せ……あの時、誰に救われたか
白い髪の、紫の目をしていて、白のパーカーを着ていて、腰に二本の刀を提げた………………」
リィナ・スカーレット
「…………」
私は記憶の奥底を探る
崩神 一斗
「…………どうだ?何か、思い当たったか?」
リィナ・スカーレット
「…………私とラズ兄が死にかけた場所は二つあります」
崩神 一斗
「……二つ、と?」
リィナ・スカーレット
「…………ただ覚えているのが二つなだけで実際はまだあるのではないか、と」
崩神 一斗
「…………なら、自分の勘を信じて、それらしい所に行くといい」
リィナ・スカーレット
「私の勘は当てにならない気がするんですけど………」
私は苦笑しながらも、行く場所は決めていた


写真のある、あの場所へと向かう事を
リィーシェ・スプラウト
「ついでにリィナは方向音痴よね」
崩神 一斗
「グダグダ言ってる暇あったらさっさと刀々神を探しに行け…………」
狂神 アレク
「一斗、キレんなよ」
でも急いで行った方が良いよね
リィナ・スカーレット
「まぁ、行ってきます」
リィーシェ・スプラウト
「リィナ、これ」
そう言ってリィーシェはとある服を投げ渡してくる
リィナ・スカーレット
「………!!」
それは私が暗殺  ・   ・の時に着ていた服だった

しっかりと洗われて仕舞われていた筈のその服を何処からリィーシェは見つけ出したのだろう


その服は薄く魔力が纏わされていた

恐らくリィーシェが魔法を掛けたのだろう
崩神 一斗
「………………」
何処かへと消えて行ってしまう一斗さん
狂神 アレク
「やれやれ…………」
リィナ・スカーレット
「それじゃあ………行ってきます」
私はリィーシェが渡してくれた服に瞬時に着替えると、そう言った
狂神 アレク
「あいよ、行ってら
夕飯までに見つけられなかったら……それまでだよ」
そう言ってお兄ちゃんは地下室へと降りて行った
リィナ・スカーレット
「………よし、行こう」
そう呟いて私は駆け出した
………………………………………
(数分後)
リィナ・スカーレット
「………………迷子!!」
方向音痴にも程があるとは思うけど、私の場合はその度を超えてるね!?
などと考えていると声が聞こえた
立神 國刻
「あれ?リィナちゃんじゃないか……
こんな所で何してるんだい?」
リィナ・スカーレット
「あ、國刻さん」
立神 國刻
「見た感じ……道にでも迷った?」
リィナ・スカーレット
「はいぃ………」
いい加減方向音痴を治したいよぉ………
立神 國刻
「何処へ行こうとしていたんだい?
良ければ僕が送ろうか?」
リィナ・スカーレット
「良いんですか?」
送ってくれるのは正直凄く有難い
立神 國刻
「構わないよ
リィナちゃんは刀々神の奥さんだからね、刀々神を助けるんならリィナちゃんも助けるに決まってるだろう?」
リィナ・スカーレット
「ありがとうございます!」
立神 國刻
「それで?何処に行きたいんだい?」
リィナ・スカーレット
「此処に」
私はカイ兄を探しに行く前に紅魔館の自室に寄り、ある場所の写真を持って来ていた


私はその写真を國刻さんに手渡す
立神 國刻
「…………ここって……刀々神に縁のある場所……じゃないか?
本人曰く『人生の分岐点』となった地……団子の美味い駄菓子屋……」
リィナ・スカーレット
「未だに私は迷うんですよね………」
迷子になるんだよね……………
立神 國刻
「ほぅほぅ?
果たして迷っているのは道だけかな?」
扇子で口元を覆いながらそう言う國刻さん
リィナ・スカーレット
「………ぇ?」
何を、言って………………
立神 國刻
「リィナちゃん、何か心に迷いを抱えたりはしてないかい?
僕には、そう見えるんだけどね」
リィナ・スカーレット
「……………何で分かったんですか」
何で分かるのか不思議である
立神 國刻
「年長者の経験と観察眼ってやつだろうね
ま、僕もまだまだ若いんだけどね、30代だし」
リィナ・スカーレット
「十分若いですよ………」
立神 國刻
「それで、何に迷ってるんだい?」
リィナ・スカーレット
「……………私、元暗殺者なんですよ」
私は國刻さんに秘密を伝えてみた
立神 國刻
「元暗殺者?
暗殺者かー、それは初耳だなー、意外だなー、そうなると随分印象変わっちまうなー」
そう言う國刻さんの言い方はとんでもないレベルの棒読みである
リィナ・スカーレット
「………何で棒読みなんです?」
私は困惑した
凄く棒読みなのに驚きなんですけど…………
立神 國刻
「大方、こういった事を言われるのが怖い、という感じ、だね?」
リィナ・スカーレット
「…………はい」
立神 國刻
「人によっちゃそう思う人も居るだろうね
けど、僕らシックザール帝国のお偉いさんはみんな過去に訳ありの人達ばかりだから、リィナちゃんの過去がどうであろうとも、特に何も言わないと思うよ?
少なくとも、僕自身は知ってたしね、印象変わるだなんて事ある筈ないだろう?」
リィナ・スカーレット
「…………!!」
私はジワジワと目を見開く
立神 國刻
「だいたい、僕自身だって前はそういった事に関わってきた身だしね
似た境遇の持ち主を嫌うはず無いだろうに」
リィナ・スカーレット
「ありがとう、ございます」
立神 國刻
「あとはこの道を真っ直ぐ行けば目的地が見えてくるよ
僕は別件があるから、ここで失礼するよ」
リィナ・スカーレット
「ありがとうございます」
立神 國刻
「迷いに打ち勝つ、そうすれば自ずといい結果が訪れるよ」
國刻さんはそう言いながら扇子で口元を覆いながら、別方向へ行ってしまった
リィナ・スカーレット
「…………よし、行こう」
刀々神 海燕
「……………………」
探していたカイ兄は店で団子を食べていた
リィナ・スカーレット
(…………これ、凄い行きにくいやつだ)
まずどうやって話しかけるか考えてなかった
刀々神 海燕
「………………」
リィナ・スカーレット
(うん、もうこれ、行きにくすぎて行けないじゃん)
さてどうしようかな………………
刀々神 海燕
「…………誰かに、見られている?」
するとカイ兄のアホ毛が動いた
リィナ・スカーレット
(oh、忘れてた。カイ兄は探知凄いんだった)
見つかったらどうしよう…………
刀々神 海燕
「貴様……見ているな!!!!!!」
いきなり私の方を向いてくるカイ兄
リィナ・スカーレット
「にゃぁぁぁぁぁ!!!」
私は驚き飛び下がってこける
刀々神 海燕
「……って、リィナか……大丈夫か?」
手を差し伸べてくれるカイ兄
リィナ・スカーレット
「いや、私も悪いよ。声をかけれなかった訳だし」
手を取りながら私はそう答える
刀々神 海燕
「…………リィナ、済まない
私、リィナの役に立ちたくて……リィナの心の傷は全て癒そうと思ったのだが……何か、私を省いて重そうな話をしていた事に……色々と感じて飛び出してしまった」
リィナ・スカーレット
「カイ兄は悪く無いよ、私が………私が話さなかったからさ」
私があの幸せの日々から離れたくないという思いだけで大切な事を言わなかったから、カイ兄を傷つけてしまった
刀々神 海燕
「…………取り敢えず、一度戻ろうか……?」
手を繋いでそう言うカイ兄
リィナ・スカーレット
「そうだね!」
刀々神 海燕
「会計だけ済ませて……よし、帰ろ♪」
転移空間を開いてカイ兄はそう言った
リィナ・スカーレット
「あ、カイ兄」
刀々神 海燕
「ん?なんだ?」
リィナ・スカーレット
「カイ兄は悪く無いんだからね?」
私は背伸びするとカイ兄の頭を撫でる
刀々神 海燕
「…………そうか……?
それなら……まぁ、良いか……」
するとカイ兄はひょいっと私を抱き抱えた
リィナ・スカーレット
「はえ!?」
刀々神 海燕
「これで撫でやすくなっただろう?
必死に背伸びしてた姿も可愛らしかったけどね」
リィナ・スカーレット
「むー、カイ兄の身長が高すぎるの!」
刀々神 海燕
「っはは、こればっかりは仕方が無いさ
肩車してやるから許してくれよ」
そう言ってカイ兄は私に肩車をしてくれる
リィナ・スカーレット
「高〜い!」
そんな会話をしながら私とカイ兄は帰路に着くのだった
ーーーーーーーーーーーーー
五神 華
五神 華
「うぷ主です!」
五神 華
五神 華
「投稿期間が空いてしまい、申し訳ございません!」
リィナ・スカーレット
「もう少し投稿ペースを上げられるように頑張ります」
五神 華
五神 華
「さてさて今回後書き?が短いですがここまでです!」
リィナ・スカーレット
「それでは次回もゆっくりしていってね!」

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