第60話

松野千冬
7,024
2021/09/13 00:00
血のハロウィン。

私の大好きな人が死んでしまった。
小さい頃からずっと一緒だったのに。

彼の背中を追いかけて、
彼のように友達思いで、
彼のように強くなりたいと思っていたのに。

私の、生きる目標を失ってしまった。

数日家に引きこもり、外に出ない日々。
途方に暮れ、何度も死のうと思った。

でもいざその時になると怖くて。
きっと彼も怖かったはずなのに。

私は弱い。
だから変わらないといけない。
ポンッと圭介が背中を押してくれた気がした。

何日か振りに外の空気を吸う。
そして目的地まで止まることなく歩く。
あなた
あっ…
目指していた場所には先客がいた。
金髪の髪が揺れている。

松野千冬。

圭介とよく一緒にいて私も仲良くなった。
当然、会うのは久々だ。

墓石の前に座り、そこには半分のペヤングが置いてある。
圭介に、話しかけているようだ。
邪魔しては悪いと思い影から見守る。

そして涙を流す所を目撃してしまう。


言葉を掛けられなかった。
胸が締め付けられて、自分まで泣いてしまいそうだった。
でも自然と身体が動いていた。
松野千冬
…っ!
彼を、千冬くんを抱き締める。
きっといきなり抱き締められたから驚いているに違いない。
少し申し訳ないと思いながらも、泣いている彼を放ってはおけなかった。
松野千冬
あなた、さん…
気が付いたら私も涙が零れていた。
声を押し殺す。

すると後ろから足音が聞こえる。


マイキーが立っていた。

2人で彼を見上げる。
何かを決心した表情だった。

あれから1ヶ月程経った。

私と千冬くんはお互いを支え合っていた。

もちろん、大好きな人がいなくなった悲しみは癒える事はない。
でも2人で居れば、多少は紛らわす事が出来た。

というのも、私だけかもしれない。
いつまでも過去に囚われているのは。

千冬くんは強い。
しっかり前を見ているのに。

それに比べて私は…
松野千冬
あなた、どうした?
考え事をしていたせいか、ぼーっとしたまま歩いていた。
心配してくれた千冬くんが顔を覗き込む。
あなた
ごめん、考え事してた
あははと笑って誤魔化す。
千冬くんは鋭い所があるから、心配掛けないようにしないと。
松野千冬
そう?何かあったら言えよ?
一瞬思い詰めたような顔をしたが、いつもの笑顔に戻る。

多分彼は気付いているだろう。
私の考えている事を。

でも気付かないフリをしてくれている。

本当に優しくていい子だ。
そんな彼を、好きになってしまいそうだった。
心を殺す。
彼は友達だと呪いのように唱え続ける。

半人前にもなっていない私が、恋愛をする資格なんて無いのだから。
もうすっかり冬になり、寒さで指先が悴んでいた。
息を吐き温めるが、一向に温まらない。
カイロでも持ってくるんだったと後悔していると、隣で歩いていた彼は、私の手を握る。
びっくりして千冬くんを見るが、彼は笑っている。
松野千冬
こーすればあったかいでしょ?
握られた手を、そのまま自分のポケットに突っ込む。
さっきまで手を入れていたようで温かい。

必然と近くなった距離に、心臓がうるさく鳴る。
隣に居る彼に聞こえてしまいそうで少し怖かった。

家までの帰り道、歩幅を合わせる。
いつも通っている道なのに、何だか遠く感じた。
私と千冬くんの家は同じ団地の階違い。
道のりは一緒だ。

建物の入り口辺りまで歩くと、千冬くんは歩みを止めた。
どうしたのか心配になり、顔を覗き込む。
松野千冬
なぁ…
松野千冬
オレ、あなたの事好きなんだ
付き合って欲しいと、今まで見たことのない、真剣な表情だった。
ポケットの中で繋がれた手に力が入る。

嘘じゃない事は、バカな私でもわかった。
ついこの間、大好きな人を亡くしたのに。

私は幸せになっていいのだろうか。
好きと言う気持ちを殺して、彼に接するのをやめていいのだろうか。
松野千冬
場地さんに…悪いとか思ってる?
あなた
松野千冬
図星って顔してるね
当たりだ。

何だか圭介に申し訳ない気がした。
きっとやりたいことだっていっぱいあったはずなのに。
松野千冬
場地さんは、そんな事で怒んねぇよ
松野千冬
あなたが下ばっか向いてる方が、多分怒ると思う
松野千冬
場地さんの分まで、オレ達で幸せになろう?
死んでしまった人に答えは聞けない。
でも圭介なら笑って許してくれる気がした。
場地圭介
あなたのやりたい事いっぱいやって、いっぱい幸せになれ
そう、言ってる気がした。
ただの自己満足かもしれない。
それでも、私は誰かに背中を押して貰いたかっただけなのかもしれない。

前を向くために。
何かきっかけが欲しかったのだろう。
あなた
…うん、幸せになる…!
圭介の分も、千冬くんと!
千冬くんは嬉しそうに微笑む。
繋いだ手を口元へ持っていき、私の手の甲に軽く口付けをした。
照れ臭くてまともに顔が見れない。
そんな2人で笑い合う。


久しぶりに心から笑顔になれた日だった。











長くなりました💦
リクエスト頂いた千冬のお話🙌
切ない、甘い、ハピエンちゃんとご希望の要素入ってましたでしょうか💦
ちょっと無理やり詰め込んだ部分があり、申し訳ないです🥲

皆様良かったら感想、リクエスト待ってます💭

プリ小説オーディオドラマ