第19話

九井一 2
9,773
2021/07/21 09:29
月曜日。
いつもより早めに家を出る。

そして誰もまだ来ていない静かな教室に着く。
窓を開ける。
カーテンが風に吹かれてふわりと揺れる。

案外早い時間の教室もいいもんだな、なんて呑気なことを考えながら時間を潰す。
ちらほらクラスメイトいがやってくるが、あなたはなかなか現れない。

ついにチャイムがなった。

担任が入ってくる。
表情が暗い気がする。

なんだか心が騒がしかった。

そして重たい口を開いたのだった。


『あなたの名字が不良に絡まれて暴行を受けた』
『命に別状はないが、しばらくは入院の為学校は休む』


担任は確かにそう言った。
九井一
…は?
嘘だ。

嘘だ。

嘘だ。

オレはまた失うのか?

オレに関わる人間はいなくなるのか?

気分が悪くなり、保健室へ行く。
それでも気分は悪くなる一方で、気が付いたら学校を飛び出していた。
いまだに担任の言うことが信じられなかったからだ。

でももし本当なら…

頭の片隅に担任の言っていた病室番号が残っている。
病院に着く。
階を上がり、病室へゆっくりと近付き、名前を確認する。

『あなたの名字あなた』

いてもたってもいられず、ノックをする。
すぐに、はいと短い返事が聞こえた。

扉を開けると、そこには顔と腕と足が固定されているあなたがいた。
あなた
九井くん…?どうして…
かろうじて見える瞳が大きく開く。
オレは言葉を失っていた。
想像はしていたが、それを上回る怪我だった。

そんなオレを見兼ねて、あなたは口を開く。
あなた
来てくれたんだね、ありがとう。
えへへ、またあの人たちに絡まれちゃった…
そう言い、小さく微笑む。

なんで笑っていられるんだ。
オレは理解ができなかった。

続けてあなたは話を始める。
あなた
この間の男を呼べってね、言われたの。
でも私、九井くんには怪我して欲しくなかったから。無視したら殴られちゃった
九井一
…なんで、オレを呼べばよかっただろ。
オレは負けねぇよ
あなた
そうだね。九井くんなら負けないし、やっつけちゃうと思う。
でもね、
あなた
好きな人には迷惑かけられないから
…なんて?

あなたがオレを?

話したことなんて、数回しかないのに。

意味がわからなくて、あなたの顔を見る。
あなた
ふふっ…なんで?って顔してるね。
そうだよね、でも、助けてもらった時、好きになっちゃったんだ
だから私だけで解決しようとしたんだよ、と下を向きながらそう言う。

複雑な気持ちだった。
オレは正直、あなたに赤音を重ねているだけで、恋愛感情はなかった。

ひどいヤツだと自分でも思う。

もちろんあの時、あなたを助けてなかったら、同じようなことになっていたはずだ。
オレに振り回されて怪我をしているあなたに、今更合わせる顔がないことに気付いた。
九井一
…ごめん、全部オレのせいなんだ
九井一
オレには昔、好きな人がいたんだ。
…今はもう、会えないけど。
オレはお前をその人に重ねて罪滅ぼししようとしただけなんだ。
ひどいヤツだよ、オレは
何故かあなたに過去のことを話していた。
でも本当のことを言わないと、自分の中でケジメがつかないと思った。
あなた
…なんとなく、わかってたよ。
だって九井くんの態度見ればわかるもん。
私には気がないんだってこと。
それでも君に振り向いて欲しくて。
多分、バチが当たったんだね
あなた
君に迷惑かけたくないって思いながら、心のどこかではわかってたんだ。
だから、だから、もう終わりにする
あなた
好きだったよ、九井くん
九井一
……!!
泣きながら、あなたは言った。

オレは何も言えなかった。

頭を下げて病室を出る。
扉に手をかけたところで、小さくあなたが
あなた
バイバイ、
そう言ったように聞こえた。

崩れるように床に座り込む。

すうっと涙が溢れるのを感じた。

オレはまた、救えなかった。













後書き。

こんにちは、まろんです🌰

書いてて報われないお話は辛いなと思いました😢
初めて相手視点で書いてみましたがどうでしょうか…
長くなりすぎたのと、最後ちょっとグダグダになっちゃったの反省です💦

デイリーランキング78位になりました!
皆様のおかげです😊
ありがとうございます✨

ここまで読んで頂きありがとうございます!

プリ小説オーディオドラマ