それからはしばらく沈黙が続いた
藍沢先生はすごく綺麗な手つきで、
縫合している。
やっぱり、すごいな…
私から話しかける勇気はない。
藍沢先生は、
私のことに気づいてるのだろうか。
私が山車から転んだ時、
白石先生と冴島さんに名前を呼ばれた。
そのあと、藍沢先生に話しかけられたから
気づいたのかと思ったけど、
何も言ってこない
藍沢side
あれから、腕の縫合をしてるが
痛がる様子はない。
まあ、これだけ出血してれば感覚はなくなる
あなたは昔から、痛いのを隠すことがある
それと、考えている時に髪を触る癖。
フッ
未だに治ってないな。
随分会ってない間に、
顔が大人っぽくなったと思っていたが、
まだ変わってない所があって少し安心する。
俺が気になってるのはこっちの方だ
ゆうとくんを庇ったのなら、
頭に落ちてくるはずだ。
腕がそのくらいの傷なら、
頭も傷を受けている可能性が高い。
相変わらずだ。
上からアプローチしているときに
山車の一部が落ちてきたなら後頭部か
後頭部を見るが、大きな傷ではない。
縫合までは必要なさそうだ
……ハァ
こうなったらもう私の意見は聞いてくれない
藍沢耕作。
CTは昔から何回もやってるから
今更緊張はしない
だけど、、
見ているのが藍沢先生となると
話は別だ
やっと藍沢先生の診察から解放されると思い
勢いよく検査台から降りると
背中に激痛が走った
思わず顔をしかめた
そして藍沢先生が飛んできた
縫合してCT撮ってだから
結構時間はかかっている
藍沢先生だって仕事が残っている
かもしれない
それなのに、これからまた治療だなんて
迷惑かけすぎだ…
藍沢先生に言いくるめられ
さっきいた診察室に戻ったのであった…
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!