芳くんと透くんの3人で高校に登校するも、
クラスに到着するまで悪態のキャッチボールが
続き、疲弊しながら迎えたホームルーム。
今日は午後1時から三者面談があるので、
担任が軽く流れを説明しているのだが、
私の三者面談には親が来たことがない。
お父さんもお義母さんも透のほうには
行っているみたいなのだけれど、
私のことには興味がないのか、
向こうから『三者面談に出ようか?』などと
聞かれたことはなかった。
なので、どこか他人事のように
先生の話を聞きながら、ふと廊下側の
一番前の席にいる芳くんを見る。
すると、同じように自分とは関係ない
というような顔をしていた。
芳くん……。
どこか通じるものを感じていると、
彼と目が合った。
私にだけわかるように、
芳くんはふっと笑いかけてくる。
それにドキッとしながらも……。
たったそれだけのことで、いつも憂鬱だった
三者面談が少しだけ嫌じゃなくなった気がした。
──そして、放課後。
三者面談ではお決まりの質問に、
私は先生にバレないようにため息をつく。
そんなの、こっちが聞きたいよ。
私を邪魔に思っているんだとしても、
兄弟のうち片方の三者面談にしか
参加しないだなんて怪しまれる。
周りの目を思えば、形だけでも
三者面談に参加してくれると、
私は毎回先生から勘ぐられなくて済むのに。
そうは思いつつ、
私は一貫して伝えてきた模範解答を返す。
そうして、
三者面談を乗り切り廊下に出ると……。
前から透とお父さん、それから
お義母さんが歩いてきて鉢合わせてしまう。
逃げる間もなかった。
できれば顔を合わせたくなかったのに。
そんな心とは裏腹に、
私は作り笑いを浮かべる。
お父さんは優しい声をかけてくれるけれど、
私の胸にはなにも響かない。
その言葉に込められているのは、
私を邪険にしたことへの罪悪感。
気遣いに込められているのは
罪悪感に対する贖罪だ。
モノと金だけ与えていればいいみたいな
お父さんの形だけの優しさに騙されるほど、
私はもう子供じゃない。
いつも、お義母さんの容赦ない言葉を
窘めてくれたのは透だった。
申し訳なさそうに私を見る透に
苦笑いしながら、「私は大丈夫」だと
目で訴えて首を横に振って見せる。
とはいえ、胸の痛みは増すばかりで、
逃げ出したくてたまらなくなったとき──。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。