第12話

12話 私のヒーロー
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2019/10/29 04:09
芳くんと透くんの3人で高校に登校するも、
クラスに到着するまで悪態のキャッチボールが
続き、疲弊ひへいしながら迎えたホームルーム。

今日は午後1時から三者面談があるので、
担任が軽く流れを説明しているのだが、
私の三者面談には親が来たことがない。

お父さんもお義母さんも透のほうには
行っているみたいなのだけれど、

私のことには興味がないのか、
向こうから『三者面談に出ようか?』などと
聞かれたことはなかった。

なので、どこか他人事のように
先生の話を聞きながら、ふと廊下側の
一番前の席にいる芳くんを見る。

すると、同じように自分とは関係ない
というような顔をしていた。


芳くん……。


どこか通じるものを感じていると、
彼と目が合った。

私にだけわかるように、
芳くんはふっと笑いかけてくる。

それにドキッとしながらも……。

たったそれだけのことで、いつも憂鬱だった
三者面談が少しだけ嫌じゃなくなった気がした。




──そして、放課後。
担任の先生
担任の先生
ご両親、透くんのほうには面談に
参加しているのよね?
お父さんかお義母さん、
どちらかだけでもこっちに来れない?
三者面談ではお決まりの質問に、
私は先生にバレないようにため息をつく。
そんなの、こっちが聞きたいよ。


私を邪魔に思っているんだとしても、
兄弟のうち片方の三者面談にしか
参加しないだなんて怪しまれる。


周りの目を思えば、形だけでも
三者面談に参加してくれると、
私は毎回先生から勘ぐられなくて済むのに。


そうは思いつつ、
私は一貫して伝えてきた模範もはん解答を返す。
あなた

私は就職するって決めてますし、
これ以上家族を交えて先生と話し合うこともありません。
だけど、弟の透のほうは大学に進学する
みたいなので、いろいろ先生と詰める話があるんだと思います

そうして、
三者面談を乗り切り廊下に出ると……。

前から透とお父さん、それから
お義母さんが歩いてきて鉢合わせてしまう。


逃げる間もなかった。
できれば顔を合わせたくなかったのに。

そんな心とは裏腹に、
私は作り笑いを浮かべる。
お父さん
お父さん
ああ、美琴か。元気にしてるか? 
足りないものはないか?
あなた

うん、大丈夫だよ

お父さんは優しい声をかけてくれるけれど、
私の胸にはなにも響かない。

その言葉に込められているのは、
私を邪険にしたことへの罪悪感。

気遣いに込められているのは
罪悪感に対する贖罪しょくざいだ。

モノと金だけ与えていればいいみたいな
お父さんの形だけの優しさに騙されるほど、
私はもう子供じゃない。
お義母さん
お義母さん
援助が過ぎるんじゃないの?
これから大学受験する透にも、
お金がかかるんだし、最低限度の生活が
できるくらいの仕送りにしてちょうだい
清水 透
清水 透
母さん、支援なんて言い方は
やめてくれ。あなたは家族なんだぞ
いつも、お義母さんの容赦ない言葉を
たしなめてくれたのは透だった。

申し訳なさそうに私を見る透に
苦笑いしながら、「私は大丈夫」だと
目で訴えて首を横に振って見せる。

とはいえ、胸の痛みは増すばかりで、
逃げ出したくてたまらなくなったとき──。
???
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あなた、見つけた

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