第17話

17話 届かない声
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2019/12/03 04:09
翌日、無意識に隣に手を伸ばすと
冷たいシーツの感触があった。

胸騒ぎがして目を開けると
そこはもぬけの殻で、私は辺りを見回す。
あなた

芳くん?

室内を歩きながら芳くんの手がかりを
探していると、玄関の郵便受けに
私の家の鍵が入っていた。

芳くんが鍵を閉めてから入れたんだろう。
あなた

どこに行っちゃったの?

なにも言わずに姿を消すような人じゃ
ないのに……心配だよ。

忽然こつぜんと消えた芳くんに不安がつのり、
私は慌てて制服に着替えると朝食もとらずに
家を飛び出した。

そうしていつもより早く学校に向かったのだが、
そこで知らされたのは芳くんのお母さんが
危篤だということだった。

心ここに在らずで授業を受けて帰宅し、
家で芳くんを待っているとインターフォンが鳴る。
あなた

芳くん!?

急いで玄関に走り、ドアを開けると
憔悴しょうすいしきった様子で芳くんが立っていた。
あなた

芳くん! 学校で聞いたよ、
お母さんのこと。
朝、慌てて飛び出したんでしょう?
起こしてくれたらよかったのに!

宮内 芳
宮内 芳
……他人なのに俺の身内のことを
相談して、どうなるわけ?
あなた

え?

一瞬、なにを言われたのかがわからなかった。

冷たく突き放すような態度に
言葉を失っていると、
芳くんははっと嘲笑する。
宮内 芳
宮内 芳
あの母親……
10年ぶりに連絡してきたと思ったら、
俺を見て死ぬ前に会えてよかったって
泣き真似までして……
本当、手のひら返すのが早いよね
あなた

そんな……どんなにひどいことをされても
親は親だし、子供は子供なんだよ? 
死ぬ前に会いたいって思うのは、
普通なんじゃないかな?

宮内 芳
宮内 芳
普通? なあ、あなたならわかるだろ? 
これまで一度も連絡してこなかった
くせに自分が心細くなったら会って、
邪魔になったら捨てる。
こんな自分勝手で自分の都合ばかり
優先にする親に、子供に対する
愛情なんてあると思う?
あなた

それは私にはわからないよ。
でも、お母さんの言葉を信じたいって思う

宮内 芳
宮内 芳
あなただって裏切られたのに、
それでもまだそんなお気楽なことを
言えるんだな
自暴自棄になったような物言いで、
芳くんは私に背を向けてドアノブに手をかける。
宮内 芳
宮内 芳
じゃあな、あなた。
それなりに楽しかったよ、
あなたとの生活
あなた

芳くん、それってどういう意味? 
どこに行くつもりなの?

宮内 芳
宮内 芳
それ、あなたに関係なくない?
あなた

関係あるよ! 
芳くんは私の大事な家族で、
恋人で、帰る場所なんだよ? 
お願い……行かないで!

その声に一瞬震える芳くんだけれど、
振り切るようにしてそのまま出ていってしまう。

ガチャンと閉まる扉の音が、
やけに大きく耳に響いた。

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