翌日、無意識に隣に手を伸ばすと
冷たいシーツの感触があった。
胸騒ぎがして目を開けると
そこはもぬけの殻で、私は辺りを見回す。
室内を歩きながら芳くんの手がかりを
探していると、玄関の郵便受けに
私の家の鍵が入っていた。
芳くんが鍵を閉めてから入れたんだろう。
なにも言わずに姿を消すような人じゃ
ないのに……心配だよ。
忽然と消えた芳くんに不安が募り、
私は慌てて制服に着替えると朝食もとらずに
家を飛び出した。
そうしていつもより早く学校に向かったのだが、
そこで知らされたのは芳くんのお母さんが
危篤だということだった。
心ここに在らずで授業を受けて帰宅し、
家で芳くんを待っているとインターフォンが鳴る。
急いで玄関に走り、ドアを開けると
憔悴しきった様子で芳くんが立っていた。
一瞬、なにを言われたのかがわからなかった。
冷たく突き放すような態度に
言葉を失っていると、
芳くんははっと嘲笑する。
自暴自棄になったような物言いで、
芳くんは私に背を向けてドアノブに手をかける。
その声に一瞬震える芳くんだけれど、
振り切るようにしてそのまま出ていってしまう。
ガチャンと閉まる扉の音が、
やけに大きく耳に響いた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。