第10話

10話 焦れ甘な誘惑
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2019/10/15 04:09
至近距離で見下ろしてくる芳くんの
切なげに寄せられた眉や揺れる瞳を見たら、
なぜだか胸が締めつけられた。

なにも言えずに見つめ合っていると、
しばらくして芳くんはため息をつく。
宮内 芳
宮内 芳
あー……俺のせいだって、
わかってはいるんだけど
ばつが悪そうな顔で、
芳くんは私の頭を撫でてくる。
宮内 芳
宮内 芳
あまりよそよそしくされると、
堪えるっていうか……
あなた

え?

あの、去る者は追わず、
来る者は拒まずの芳くんが!?


驚愕きょうがくしていると、
芳くんは私の心を読んだように苦笑いする。
宮内 芳
宮内 芳
俺だって、本気の女の子が相手なら
嫌われたくないって思うよ。
そうならないように努力しようとする
本気……。

その言葉に私はまたドキドキして、
呼吸の仕方すら忘れてしまう。

思考が働かないでいると、
その隙を突くように芳くんは私を抱き上げた。
あなた

わっ、なにするの!?

宮内 芳
宮内 芳
というわけで、
俺を心配させた責任とって?
私を抱えたまま芳くんが向かう先には、
ベッドがある。

嫌な予感がして芳くんを見上げると、
意味深な笑みが返ってきた。
宮内 芳
宮内 芳
あなた、今、なに想像してる? 
俺にどうにかされちゃうかもって不安?
それとも……
芳くんは私をベッドに横たわらせると、
上に覆い被さってきた。
宮内 芳
宮内 芳
期待、してくれてる?
あなた

き、期待って、なにに対して……?

宮内 芳
宮内 芳
俺に言わせる気?
あなた

や、やっぱりなにも答えないで!

聞いたほうが恥ずかしくなる答えが
返ってくるに違いないから。

頬を熱くしながらぶんぶんと首を横に振っていると、限界とばかりに芳くんはぶっと吹きだす。
宮内 芳
宮内 芳
ごめん、ごめん。
あなたが可愛くて、
からかいすぎちゃった。
だから、そんなに泣きそうな顔しないで
芳くんはなぐさめるように頭を撫でてくる。

それから隣にごろんと寝転がって、
私を腕の中に閉じ込めた。
あなた

あのう……まさか、一緒に寝るの?

宮内 芳
宮内 芳
もちろんだよ。
俺を心配させた責任、
とってもらわないと。
……おやすみ、あなた
いやいやいや、眠れるはずがない!


そうは思いながらも、芳くんの体温に
包まれているうちに、うとうとしてくる。

自分以外の鼓動がまるで子守唄のように
聞こえてきて、瞼を閉じたとき──。
宮内 芳
宮内 芳
大好きだよ、あなた
寝落ちする寸前に鼓膜を揺さぶった甘い声に
導かれて、私は夢の世界へと旅立った。




芳くんと暮らすようになって、一週間。

目が覚めると、隣から芳くんの
規則正しい寝息が聞こえてくる。

最近では一緒に寝るのがすっかり
当たり前になっていた。

私は芳くんを起こさないように
そっとベッドを抜け出し、
平日なので制服に着替えると、
その上からエプロンをして朝食を作る。

そして、
私が食事をお皿に盛りつけ始めた頃……。
宮内 芳
宮内 芳
今日はぶりの照り焼きにお味噌汁なんだ。うわあー、おいしそう!
私の背後から身を屈めて、
手元をのぞき込んできたのは芳くんだ。

制服に身を包んではいるものの、
髪はまだ跳ねている。

これも一緒に暮らすようになって知ったのだけれど、芳くんは朝食後、歯磨きをするときに
髪をセットするのが習慣らしい。


芳くんいわく、髪のセットは外行きモードに
切り替えるためのスイッチなのだとか。
あなた

おはよう、芳くん

宮内 芳
宮内 芳
ん、おはよ。
じゃあ俺、できた料理運ぶね
そう言って、
芳くんがお皿に手を伸ばしたとき──。

ピーンポーンとインターフォンが鳴り、
芳くんは「俺が出るよ」と言って、
料理を作っている私の代わりに玄関に向かう。

お言葉に甘えて、私が料理の盛りつけを
再開し始めると聞き覚えのある声がした。
清水 透
清水 透
お前、誰だ

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