第2話

2話 「今晩、泊めてくんない?」
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2019/08/20 04:09
*** 

当たり障りなくクラスメイトと交流して、
授業をこなして、学校から帰宅した私は
夕飯の準備中に重大な失態しったいを犯したことに気づいた。
あなた

肝心なカレー粉、切らしてたの忘れてた!

カレーの具材は煮つめ終わり、
残すところカレー粉の投入だけだったのだが、
私はがっくしと肩を落とす。


仕方ない、買いに行こう


私は部屋着の上からつけていた
エプロンを外すと、ジーパンにブラウスという
ラフな格好でお財布と携帯だけを持って家を出た。

時刻は午後7時。

近くのコンビニでカレー粉を買った帰りに
街頭がいとうの少ない真っ暗な夜道を進んでいると、
月明かりの下で縁石えんせきに座り込む
制服姿の男の子を見つける。


こんな時間にひとりで、なにしてるんだろう?


顔は見えなかったけれど、
私はなんとなく顔を伏せて、
その前を通過しようとした。

その時──。
???
???
あ、お姉さん! 
よかったら、今晩泊めてくれない?
ふいに声をかけられて、私は足を止める。


お姉さんって、私のこと?


辺りを見渡してみるけれど、
女の人は私以外にいない。

彼は私に話しかけているんだと、
確信をもって振り返る。

すると、その顔には見覚えがあった。

それは彼も同じだったようで、
私を見た途端に目を丸くする。
宮内 芳
宮内 芳
あれ? 
年上のお姉さんかと思ったら、
まさかの清水さん?
あなた

宮内くん……だよね?

宮内 芳
宮内 芳
うん。でも、これは驚いた。
清水さんって、私服だと大人っぽく見えるね。俺、うっかり声かけちゃったよ
この人……息をするみたいに女の子を褒めて、
やっぱり軽い。

私は警戒しつつも、疑問を口にする。
あなた

どうしてこんなところに?

宮内 芳
宮内 芳
あ、そうだった、そうだった
宮内くんはお尻の汚れを叩きながら
立ち上がると、私の目の前まで歩いてくる。
宮内 芳
宮内 芳
あのさ、清水さん。
今日、泊めてくんない?
あなた

……はい?

私の聞き間違い? 

今、家に泊まるとかなんとか、
聞こえたような気がするんだけど……。
宮内 芳
宮内 芳
家族がいても俺、息ひそめとくから。
部屋に泊め──
あなた

え、無理です

宮内 芳
宮内 芳
そっかー、残念。俺、断られたことなかったんだけどなー。百戦錬磨だったんだけど、きみが初めて負けた相手だよ
そう言って、あっさり路上に座り直す芳くん。


もしかして……泊めてくれる人が現れるまで、
ここにいるつもり?

どうして、家に帰らないんだろう。


そんな疑問がたくさん頭に浮かぶけれど、
私は問うのをやめた。

家に帰らない理由なんて、ひとつしかない。
宮内くんにとって、家が帰る場所じゃないからだ。

それはほとんど直感だった。

笑みを浮かべているのに、
明かりが少ないせいか、どこか陰った横顔。

そんな宮内くんに、
孤独な自分を重ねたのだと思う。
あなた

……一晩だけ

宮内 芳
宮内 芳
え?
あなた

一晩だけなら、いいよ

気づいたときには、私はそう口にしていた。

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