***
当たり障りなくクラスメイトと交流して、
授業をこなして、学校から帰宅した私は
夕飯の準備中に重大な失態を犯したことに気づいた。
カレーの具材は煮つめ終わり、
残すところカレー粉の投入だけだったのだが、
私はがっくしと肩を落とす。
仕方ない、買いに行こう
私は部屋着の上からつけていた
エプロンを外すと、ジーパンにブラウスという
ラフな格好でお財布と携帯だけを持って家を出た。
時刻は午後7時。
近くのコンビニでカレー粉を買った帰りに
街頭の少ない真っ暗な夜道を進んでいると、
月明かりの下で縁石に座り込む
制服姿の男の子を見つける。
こんな時間にひとりで、なにしてるんだろう?
顔は見えなかったけれど、
私はなんとなく顔を伏せて、
その前を通過しようとした。
その時──。
ふいに声をかけられて、私は足を止める。
お姉さんって、私のこと?
辺りを見渡してみるけれど、
女の人は私以外にいない。
彼は私に話しかけているんだと、
確信をもって振り返る。
すると、その顔には見覚えがあった。
それは彼も同じだったようで、
私を見た途端に目を丸くする。
この人……息をするみたいに女の子を褒めて、
やっぱり軽い。
私は警戒しつつも、疑問を口にする。
宮内くんはお尻の汚れを叩きながら
立ち上がると、私の目の前まで歩いてくる。
私の聞き間違い?
今、家に泊まるとかなんとか、
聞こえたような気がするんだけど……。
そう言って、あっさり路上に座り直す芳くん。
もしかして……泊めてくれる人が現れるまで、
ここにいるつもり?
どうして、家に帰らないんだろう。
そんな疑問がたくさん頭に浮かぶけれど、
私は問うのをやめた。
家に帰らない理由なんて、ひとつしかない。
宮内くんにとって、家が帰る場所じゃないからだ。
それはほとんど直感だった。
笑みを浮かべているのに、
明かりが少ないせいか、どこか陰った横顔。
そんな宮内くんに、
孤独な自分を重ねたのだと思う。
気づいたときには、私はそう口にしていた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。