家に帰ると、玄関の前に誰かが
しゃがみ込んでいた。
あれって……。
透は私とお義母さんたちに挟まれて、
大変だと思う。
いつも家族の懸け橋になろうって、
動いてくれてる。
私、このまま逃げていいの?
考えあぐねていると、
芳くんに顔をのぞき込まれる。
なにを失っても、芳くんがいる。
そう思うと不思議と勇気がわいてきて、
私は透とともに3年ぶりに自宅へ帰ることに
なった。
家に到着するや否や、みんなで食卓を囲む。
けれども、お義母さんはむすっとした
表情のままひと言も発さず、
明らかに私を歓迎していなかった。
お父さんが気を遣って、
大して気にもしていないのに、
私の進路のことを聞いてくる。
言葉の端々に棘があり、当たりがつらい
お義母さんに私は肩をすくめながら答える。
お金なら、か……。
私はそんなものより、これからは一緒に
いようとか、そういう言葉を期待してたのに。
ここにはもう、私の帰る場所はないんだ。
血の繋がりがあっても
家族にはなれないこともあるのだと、
それをここに来てまざまざと思い知らされた。
それでも、心のどこかでは信じてたんだ。
お母さんがいた頃みたいに、
普通の家族になれるかもしれないって。
信じていた、と過去形になってしまう自分に
嘲笑をもらす。
私にとって、ここに縋りつくことは
重要なことなのかな?
そう考えて、
答えは悩むまでもなく簡単に出た。
ううん、私にとっては家で待ってくれている
彼のほうがずっとずっと大事だ。
心が固まっていくのと同時に
今まで傷ついていたことが馬鹿らしくなって、
気持ちが晴れていく。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!