第14話

14話 私の帰る場所
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2019/11/12 04:09
家に帰ると、玄関の前に誰かが
しゃがみ込んでいた。

あれって……。
あなた

透!?

清水 透
清水 透
今日、三者面談でのこと……悪かった。
それで、その……
一緒に夕食をとらないか? 
もちろん強要はしない。
けど、もっと親父さんと母さんとも
歩み寄る機会が作れたらと思ってる
透は私とお義母さんたちに挟まれて、
大変だと思う。

いつも家族の懸け橋になろうって、
動いてくれてる。

私、このまま逃げていいの?


考えあぐねていると、
芳くんに顔をのぞき込まれる。
宮内 芳
宮内 芳
あなたはどうしたい?
あなた

まだ、迷ってるんだけど……。
でも、いつかはちゃんと話し合って、
自分の気持ちにも整理をつけなきゃ
いけないってわかってるの

宮内 芳
宮内 芳
……正直、あなたが傷つくかもしれないと思うと行かせたくないけど、
あなたの言う〝いつか〟っていうのは、
きっと今だ
あなた

芳くん……

宮内 芳
宮内 芳
透がその場を用意してくれたんなら、
そのきっかけを無駄にしないほうがいい
あなた

そう……だよね。どんな結果になっても
いいから、私、家族に向き合ってみる

宮内 芳
宮内 芳
うん。なら俺は待ってる。
なにがあっても、あなたには俺っていう
帰る場所があるってこと、忘れるなよ?
なにを失っても、芳くんがいる。

そう思うと不思議と勇気がわいてきて、
私は透とともに3年ぶりに自宅へ帰ることに
なった。




家に到着するや否や、みんなで食卓を囲む。

けれども、お義母さんはむすっとした
表情のままひと言も発さず、
明らかに私を歓迎していなかった。
お父さん
お父さん
あなた、将来はどうするんだ?
お父さんが気を遣って、
大して気にもしていないのに、
私の進路のことを聞いてくる。
あなた

私は……働こうと思うの

お義母さん
お義母さん
高卒でどこで働くの? 
世の中、そんなに甘くないのよ
言葉の端々に棘があり、当たりがつらい
お義母さんに私は肩をすくめながら答える。
あなた

お父さんたちに迷惑がかからないように
したいから、頑張ります。ずっとお金を
工面してもらうわけには、いかないし

清水 透
清水 透
まだ未成年なんだ、
親に頼るのは当然だろ。
そんなふうに迷惑だなんて……
お父さん
お父さん
そうだぞ、
いくらでもお金なら出すからな
お金なら、か……。

私はそんなものより、これからは一緒に
いようとか、そういう言葉を期待してたのに。

ここにはもう、私の帰る場所はないんだ。


血の繋がりがあっても
家族にはなれないこともあるのだと、
それをここに来てまざまざと思い知らされた。


それでも、心のどこかでは信じてたんだ。

お母さんがいた頃みたいに、
普通の家族になれるかもしれないって。


信じていた、と過去形になってしまう自分に
嘲笑ちょうしょうをもらす。


私にとって、ここにすがりつくことは
重要なことなのかな?


そう考えて、
答えは悩むまでもなく簡単に出た。


ううん、私にとっては家で待ってくれている
彼のほうがずっとずっと大事だ。


心が固まっていくのと同時に
今まで傷ついていたことが馬鹿らしくなって、
気持ちが晴れていく。
あなた

私は……無理にみんなと家族になろうとは
思ってないよ。
今から図々しくこの家に転がり込むつもりも、みんなの幸せを壊すつもりもない

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