第6話

6話 影
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2019/09/17 04:09
放課後、私は芳くんと夜ご飯の材料を買いに
スーパーへ来ていた。
あなた

あ、こっちのお肉は3割引きになってる。
牛肉は高いし、また豚肉になっちゃうけど、まあいっか

芳くんが押してくれているカートに
豚肉のパックをいくつか入れて、
顎に手をあてながら、うんうんと唸る。
宮内 芳
宮内 芳
ちゃんと値段見て、安売りなものを選んでるんだ? 家庭的な女の子っていいね
感心したふうに呟く芳くんに
私はなんだか照れ臭くなって、ふいっと顔を背ける。
あなた

家庭的っていうか……
仕送りをもらってる身で、
豪遊ごうゆうはできないから

宮内 芳
宮内 芳
……あの、さ。
言いづらかったらいいんんだけど、
あなたはどうしてあの家に
ひとりで住んでんの?
仕送りってことは家族はいるんだよね?
あなた

あ……実は……

私が簡単に家庭の事情を説明すると、
芳くんは神妙な面持ちで「なるほど」と頷いていた。
宮内 芳
宮内 芳
まさか、新しいお義母さんの連れ子が
隣のクラスの清水透だったとはね
あなた

学校には隠してもらってるの。
ほら、双子にしては似てないし、
同じ家に住んでないなんて怪しいでしょ?

宮内 芳
宮内 芳
確かにな。
まあ、うちと似たようなもんか
あなた

え?

宮内 芳
宮内 芳
ううん、なんでもない。
じゃあ、買うもん買ったし、
家に帰ろうか
あなた

う、うん

最後の言葉──『うちと似たようなもんか』に
引っかかりを覚えている間に、芳くんは
さっさとレジに並んで支払いを済ませてしまった。

家までの帰り道、
私はお財布を取り出しながら芳くんに詰め寄る。
あなた

食費なら私が……

宮内 芳
宮内 芳
うん、ありがと
そう言って、
芳くんは私の手からひょいっと財布を奪う。

──え?

驚いている間に、芳くんは私のカバンに
お財布をしまってしまった。
宮内 芳
宮内 芳
けど、うちの親。
俺に大金だけ渡して好き勝手してっから、有り余ってるわけよ。
だから、気にしないで。
それに居候してるんだし、
俺の金はあなたが管理してくれていいよ
そう言う芳くんの表情に、
私は出会ったときと同じ影を見た気がした。
あなた

じゃあ、今回はありがたくおごられます。
その代わりと言ってはなんだけど、
おいしいものを作るね

私にできることといったら、
それくらいだよね。

だって、人の苦しみを『辛かったね』『頑張ったね』なんて評価する権利、私にはないから。

本心なんて、芳くん本人にしかわからない
ことだから、私は寄り添おう。

なにも言わずに、私なりのやり方で。


そんな気持ちで笑うと芳くんは
眩しそうに私を見つめて、小さく呟く。
宮内 芳
宮内 芳
ありがとう

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