放課後、私は芳くんと夜ご飯の材料を買いに
スーパーへ来ていた。
芳くんが押してくれているカートに
豚肉のパックをいくつか入れて、
顎に手をあてながら、うんうんと唸る。
感心したふうに呟く芳くんに
私はなんだか照れ臭くなって、ふいっと顔を背ける。
私が簡単に家庭の事情を説明すると、
芳くんは神妙な面持ちで「なるほど」と頷いていた。
最後の言葉──『うちと似たようなもんか』に
引っかかりを覚えている間に、芳くんは
さっさとレジに並んで支払いを済ませてしまった。
家までの帰り道、
私はお財布を取り出しながら芳くんに詰め寄る。
そう言って、
芳くんは私の手からひょいっと財布を奪う。
──え?
驚いている間に、芳くんは私のカバンに
お財布をしまってしまった。
そう言う芳くんの表情に、
私は出会ったときと同じ影を見た気がした。
私にできることといったら、
それくらいだよね。
だって、人の苦しみを『辛かったね』『頑張ったね』なんて評価する権利、私にはないから。
本心なんて、芳くん本人にしかわからない
ことだから、私は寄り添おう。
なにも言わずに、私なりのやり方で。
そんな気持ちで笑うと芳くんは
眩しそうに私を見つめて、小さく呟く。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!