第15話

15話 きみへと続く道
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2019/11/19 04:09
清水 透
清水 透
あなた、なに言って……
あなた

ここに来たら、なにが大切なのかに
気づけた。私は血の繋がりよりも、
心の繋がりを大事にしたい。
私を本当に必要としてくれる
人のところへ帰るつもり

清水 透
清水 透
それって……芳のことか
私は透の質問には答えずに続ける。
あなた

だから、ここへ来るのはこれが最後です。
短い間でしたが、私を家族にしてくれて
ありがとう。それから、幸せになってね

お父さん
お父さん
それは、どういう……
あなた

私はもう、あなたたちとは他人です。
だからお父さん……お義母さ……静香しずかさんも、もう私に捕らわれなくていいんです

それだけ言って席を立つと、
私は懐かしい実家の廊下を歩いて
玄関にやってくる。

そこで靴に履き替えていると、
予想外なことにお父さんが追いかけてきた。
お父さん
お父さん
……っ、俺を恨んでるか?
あなた

そういう時期もあったけど……
今は恨んでない。今があるから、
私は大事な人と出会えたんだもの

お父さん
お父さん
そうか……
あなた

バイトをすぐに探すから、
仕送りにも頼らないように……

お父さん
お父さん
いや、卒業までは送るよ。
お前の母さんが、お前のために残した
貯金があるから、貰ってくれ
あなた

……なら、お言葉に甘えます

素直に好意を受け取ったのは、
お父さんの顔に罪悪感が滲んでいたからだ。

本当なら「許せない!」って
ののしるところなのだろうけれど、
不思議と怒りはわかなかった。

それはきっと、私がひとりじゃないからだ。

穏やかな気持ちでお父さんを見つめていると、
廊下の先にあるリビングの扉が荒々しく
開け放たれる。
お義母さん
お義母さん
でも、それっきりよ。それ以上は、
せびろうとしないでちょうだいね
清水 透
清水 透
母さん!
最後に念を押してくるお義母さんを透が止める。

そんな親子の姿を眺めながら、
私は透に向かって首を横に振る。
あなた

透、私は大丈夫。それから、静香さん。
私はもう、この家には関わらないので
安心してください

そう言って、ドアノブに手をかける
私の背中に透の声がかかる。
清水 透
清水 透
あなた、今からでも俺が説得するから、
諦めるなよ!
諦めるとかじゃ、ないんだよ……。

私は前を向いたまま、はっきりと
自分の意思を伝える。
あなた

私、気づいたの、この家で生きるよりも、
芳くんといるほうが幸せになれるって

清水 透
清水 透
あなた……
あなた

それじゃあね

私は悲しいだけの繋がりに『さよなら』を
して、ドアを開け放つ。

失ったものは大きいはずなのに、
不思議と心は軽い。


──芳くんに会いたい。


その一心で、私は一度も振り返らずに
芳くんへと続く道を全力で走った。

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