──1年前の3月。
そう言って、お父さんはマンションの一室の
ドアを開けると私を中に促す。
なんとなく、こうなる気はしていた。
お母さんがガンで3年前に他界したあと、
お父さんは寂しさからか、すぐに再婚した。
お義母さんの連れ子で義弟の透くんとは
同い年ということもあり、
早くに打ち解けたのだけれど……。
お義母さんは私の存在をあまりよく思っていなかったのか、家にいても態度は素っ気なかった。
そしてついに、私は生まれてから15年間
お母さんと過ごした清水家から追い出されて、
いつの間に契約していたのか、
4月から通う高校の近くにある
マンションの一室を与えられた。
つまり、実の父親からも厄介者払い
されてしまったんだと、
どこか他人事のように私は理解した。
──それから、1年後……。
私は誰もいない2LDKの部屋に向かって
そう声をかけると、静かにマンションの
ドアを閉めて鍵をかける。
私──清水 あなたはここから
徒歩10分圏内にある高校の2年生。
このマンションで暮らすること1年が経ち、
ひとりの生活にも慣れてきた今日この頃。
何の変哲もない日々を過ごしている。
特に出歩くこともなく
家で過ごした夏が終わり、季節は秋。
学校にやってくると、
ブレザー姿の生徒がちらほら見受けられる。
私はクラスの女の子と苦笑いしながら、
当たり障りない世間話をしてクラスへ向かう。
すると、毎度恒例になりつつある歓声が聞こえてくる。
恋人同士のような会話が聞こえてきて、
私は「またか」と呆れる。
宮内くんを囲んでいる女の子たちを
眺めながら、私は顔を引きつらせる。
アッシュベージュのふわふわとした髪に、
くっきりとした目やすっと筋の通った鼻が
西洋人を思わせる顔立ち。
身の内から妖艶さを醸し出している宮内 芳くんは、
男女問わず魅了してしまう学校の人気者だ。
きっと、幸せな家庭に育ったんだろうな。
なにもかも持っている人は
心の余裕があるから、人に優しくできるし、
誰からも好かれる。
羨望の気持ちで教室の入口に立ったまま
宮内くんを見ていると、ふいに視線がかち合った。
うわっ、どうしよう。
見すぎちゃったみたい。
後悔していると、
芳くんはパチッとウインクしてくる。
──軽っ、反応に困る!
噂で宮内くんは彼女をとっかえひっかえに
するほど、女癖が悪いのだと聞いたことがある。
関わり合いになりたくないな。
私は慌てて視線を逸らして、
自分の席へと向かったのだった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。