前の話
一覧へ
次の話

第1話

1話 噂の彼は人気者
21,285
2019/08/13 02:59
──1年前の3月。
お父さん
お父さん
あなた、今日からここがお前の家だよ
そう言って、お父さんはマンションの一室の
ドアを開けると私を中にうながす。

なんとなく、こうなる気はしていた。

お母さんがガンで3年前に他界したあと、
お父さんは寂しさからか、すぐに再婚した。

お義母さんの連れ子で義弟のとおるくんとは
同い年ということもあり、
早くに打ち解けたのだけれど……。

お義母さんは私の存在をあまりよく思っていなかったのか、家にいても態度は素っ気なかった。

そしてついに、私は生まれてから15年間
お母さんと過ごした清水しみず家から追い出されて、

いつの間に契約していたのか、
4月から通う高校の近くにある
マンションの一室を与えられた。

つまり、実の父親からも厄介者払い
されてしまったんだと、
どこか他人事のように私は理解した。


──それから、1年後……。
あなた

行ってきます

私は誰もいない2LDKの部屋に向かって
そう声をかけると、静かにマンションの
ドアを閉めて鍵をかける。

私──清水 あなたはここから
徒歩10分圏内けんないにある高校の2年生。

このマンションで暮らすること1年が経ち、
ひとりの生活にも慣れてきた今日この頃。

何の変哲へんてつもない日々を過ごしている。

特に出歩くこともなく
家で過ごした夏が終わり、季節は秋。

学校にやってくると、
ブレザー姿の生徒がちらほら見受けられる。
クラスメイトA
クラスメイトA
清水さん、おはよう。
一限目から体育って、怠いよね
あなた

おはよう。
そうだね、私も朝から動ける自信ないな

私はクラスの女の子と苦笑いしながら、
当たり障りない世間話をしてクラスへ向かう。

すると、毎度恒例になりつつある歓声が聞こえてくる。
クラスメイトB
クラスメイトB
かおるくん、香水変えた? 
すごくいい匂いだね!
宮内 芳
宮内 芳
よくわかったね。
でも、これは柔軟剤。それに……
きみのほうがいい匂いだと思うけどな
恋人同士のような会話が聞こえてきて、
私は「またか」と呆れる。
クラスメイトA
クラスメイトA
芳くん、
今日も色気がダダ漏れてるよねえ
あなた

相変わらず、すごい人気だね

宮内くんを囲んでいる女の子たちを
眺めながら、私は顔を引きつらせる。

アッシュベージュのふわふわとした髪に、
くっきりとした目やすっと筋の通った鼻が
西洋人を思わせる顔立ち。

身の内から妖艶さを醸し出している宮内みやうち 芳くんは、
男女問わず魅了してしまう学校の人気者だ。


きっと、幸せな家庭に育ったんだろうな。

なにもかも持っている人は
心の余裕があるから、人に優しくできるし、
誰からも好かれる。


羨望せんぼうの気持ちで教室の入口に立ったまま
宮内くんを見ていると、ふいに視線がかち合った。
宮内 芳
宮内 芳
…………
うわっ、どうしよう。
見すぎちゃったみたい。

後悔していると、
芳くんはパチッとウインクしてくる。
あなた

……!

──軽っ、反応に困る! 

噂で宮内くんは彼女をとっかえひっかえに
するほど、女癖が悪いのだと聞いたことがある。


関わり合いになりたくないな。

私は慌てて視線を逸らして、
自分の席へと向かったのだった。

プリ小説オーディオドラマ