夜中、なんだか考え込んでしまって、あまり眠れなかった。
その日に見た夢は、雅志先輩とまだ付き合っていた時のものだった。
──ピピッ、ピピッ、ピピッ。
毎朝同じ時間に設定しているスマホのアラームが鳴って、夢から強制的に覚めた。
*
あくびをしながら、通学路を歩く。
昨日の出来事に、現実味がない。
付き合っていた時ですら、うちに来たことがなかった雅志先輩と、
別れて一年以上も経ってから、部屋でふたりきりになるなんて。
学校が見えてきた。
校門の前で、誰かを待っているかのように立っている姿を見て、私は急いだ。
普段は生意気な口を聞くけど、修斗くんは本当はとても優しい。
修斗くんは動揺しているのか、完全に呼び捨てをしてしまっている。
頭を撫でてあげたくなったけど、背が高くて届かないから、やめておいた。
雅志先輩のことは記憶から薄くなっているけど、
私をなぐさめてくれた時の、修斗くんの背中はよく覚えている。
当時は私と変わらないくらいの小さな背丈で、
泣き顔を隠そうとする私のために、ずっと背を向けていてくれた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!