第4話

君のおかげ
13,002
2021/08/28 04:00
夜中、なんだか考え込んでしまって、あまり眠れなかった。
その日に見た夢は、雅志先輩とまだ付き合っていた時のものだった。
──ピピッ、ピピッ、ピピッ。
一宮 みこ
一宮 みこ
!!
毎朝同じ時間に設定しているスマホのアラームが鳴って、夢から強制的に覚めた。
一宮 みこ
一宮 みこ
(何の夢、見てたんだっけ)
一宮 みこ
一宮 みこ
(覚えてないけど、……すごく幸せな夢だった気がする)
あくびをしながら、通学路を歩く。
昨日の出来事に、現実味がない。
付き合っていた時ですら、うちに来たことがなかった雅志先輩と、
別れて一年以上も経ってから、部屋でふたりきりになるなんて。
一宮 みこ
一宮 みこ
(付き合ってから、どれくらいでお互いの家に行ったりするものなんだろう)
一宮 みこ
一宮 みこ
(何も分からないうちに、終わっちゃったもんな)
一宮 みこ
一宮 みこ
(髪型も変わって、大人っぽくなってたな)
一宮 みこ
一宮 みこ
(……知らない人みたいだった)
学校が見えてきた。

校門の前で、誰かを待っているかのように立っている姿を見て、私は急いだ。
一宮 みこ
一宮 みこ
修斗くん!
五十嵐 修斗
五十嵐 修斗
あ、来た
五十嵐 修斗
五十嵐 修斗
おはようございます
一宮 みこ
一宮 みこ
おはよう。ごめんね、昨日、さっさと電話切っちゃって
五十嵐 修斗
五十嵐 修斗
いや、俺も、みこ先輩が授業中だって分かってて、電話しちゃったんで
五十嵐 修斗
五十嵐 修斗
先生に、印象悪くならなかったですか? いじめられたりしてない?
一宮 みこ
一宮 みこ
大丈夫だよ
普段は生意気な口を聞くけど、修斗くんは本当はとても優しい。
五十嵐 修斗
五十嵐 修斗
てか、男の先生って、どんな人ですか?
一宮 みこ
一宮 みこ
あー……
一宮 みこ
一宮 みこ
(別にいいか。隠すことでもないし)
一宮 みこ
一宮 みこ
実は、雅志先輩……だったんだよね
五十嵐 修斗
五十嵐 修斗
……
五十嵐 修斗
五十嵐 修斗
……え?
五十嵐 修斗
五十嵐 修斗
え? 雅志先輩って、三笠雅志のこと?
修斗くんは動揺しているのか、完全に呼び捨てをしてしまっている。
一宮 みこ
一宮 みこ
そう、あの三笠雅志先輩
五十嵐 修斗
五十嵐 修斗
なんで? まさか、相手がみこ先輩って分かってて、来たとか
一宮 みこ
一宮 みこ
さすがに、それはないよ
五十嵐 修斗
五十嵐 修斗
……みこ先輩は、大丈夫なんですか?
一宮 みこ
一宮 みこ
うん。会うまで忘れてたくらいだったしね
一宮 みこ
一宮 みこ
授業中は、ちゃんと先生と生徒として接するって、決めごともしたし
五十嵐 修斗
五十嵐 修斗
そういうことじゃなくて
一宮 みこ
一宮 みこ
私が、雅志先輩と別れた時、ボロボロでひどかったから?
五十嵐 修斗
五十嵐 修斗
……
一宮 みこ
一宮 みこ
心配してくれてありがとう
一宮 みこ
一宮 みこ
修斗くん、実はいい子だよね
頭を撫でてあげたくなったけど、背が高くて届かないから、やめておいた。
五十嵐 修斗
五十嵐 修斗
一年しか違わないくせに、子ども扱いしないでもらえますか
一宮 みこ
一宮 みこ
してないってば
一宮 みこ
一宮 みこ
あの時も、修斗くんだけは、ずっとそばにいてくれたよね
雅志先輩のことは記憶から薄くなっているけど、
私をなぐさめてくれた時の、修斗くんの背中はよく覚えている。
当時は私と変わらないくらいの小さな背丈で、
泣き顔を隠そうとする私のために、ずっと背を向けていてくれた。
一宮 みこ
一宮 みこ
修斗くんのおかげで、雅志先輩のことを忘れられたの
一宮 みこ
一宮 みこ
だから、大丈夫

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