第27話

会いたい人は
5,420
2022/02/05 04:00
三笠 雅志
三笠 雅志
うわっ、みこ!?
雅志先輩が驚いた声を上げて、駆け寄ってくる。
それはきっと、緊張の糸が切れた私が、その場で地面にへたりこんでしまったから。
一宮 みこ
一宮 みこ
ご、合格? 合格したの……?
三笠 雅志
三笠 雅志
そうだよ、おめでとう
一宮 みこ
一宮 みこ
よ、良かったー……!
足に力が入らない私を、雅志先輩が支えるように立たせてくれた。
足が、ガクガクする。
一宮 みこ
一宮 みこ
雅志先輩のおかげです……。本当にありがとうございました
三笠 雅志
三笠 雅志
何言ってんの。みこが、頑張ったからだよ
一宮 みこ
一宮 みこ
ううん、本当に……。私ひとりじゃ、きっと無理だった
三笠 雅志
三笠 雅志
僕は、家庭教師として、やれることしかやってない
三笠 雅志
三笠 雅志
むしろ、先生と生徒として接するなんて決めておいて、自分からその約束破っちゃったよな
三笠 雅志
三笠 雅志
生徒に告白するとか、そんなの先生失格だ
三笠 雅志
三笠 雅志
すごく困らせたと思う。受験勉強の邪魔もしたかもしれない
私は、首を横に振る。
一宮 みこ
一宮 みこ
そんなことないです。すごく嬉しかった
一宮 みこ
一宮 みこ
私……、付き合っていた時にも、私ひとりの片想いだって思ってたんです
一宮 みこ
一宮 みこ
あの時は、勝手に誤解して、話も聞かないで、本当にごめんなさい
一宮 みこ
一宮 みこ
ずっと、考えてました。ちゃんと雅志先輩の話を聞いていれば、私たちは今頃、どうなっていたんだろうって
雅志先輩は、私の話を黙って聞いてくれている。
私の言葉の先を、分かっているのかもしれない。
一宮 みこ
一宮 みこ
でも……何も見えないんです
一宮 みこ
一宮 みこ
この先、雅志先輩と一緒にいる、自分が
一宮 みこ
一宮 みこ
思い出なら、たくさんあるのに……
雅志先輩は、何もかも知っていたかのように、微笑む。
三笠 雅志
三笠 雅志
分かってたんだ。付き合っていた時も、みこは、僕よりも五十嵐といるほうが楽しそうだったから
三笠 雅志
三笠 雅志
今も、そうでしょ?
一宮 みこ
一宮 みこ
……
私はうなずいて、声を絞り出した。
一宮 みこ
一宮 みこ
ごめんなさい……
一宮 みこ
一宮 みこ
本当に、嬉しかったのに
一宮 みこ
一宮 みこ
雅志先輩が私を好きだなんて、夢みたいなことなのに
一宮 みこ
一宮 みこ
……そばにいたい人がいます
一宮 みこ
一宮 みこ
ずっと、修斗くんのことばっかり考えちゃうんです
三笠 雅志
三笠 雅志
うん
三笠 雅志
三笠 雅志
もういいよ。ちゃんと答えをくれて、ありがとう
雅志先輩は、支えるように触れていた私の肩から、手を離した。
三笠 雅志
三笠 雅志
帰りは、ひとりで大丈夫だよね?
いつの間にか、震えは止まっていた。
一宮 みこ
一宮 みこ
はい
頭を下げて、雅志先輩に背を向けると、
三笠 雅志
三笠 雅志
……みこ
呼び止められて、振り返った。
三笠 雅志
三笠 雅志
合格、おめでとう。また先輩と後輩として、よろしくな
一宮 みこ
一宮 みこ
一宮 みこ
一宮 みこ
はいっ……!
もう一度深く頭を下げて、私は今度こそ歩き出した。
家の最寄り駅までの電車に乗り、スマホを取り出す。
顔を思い浮かべて、画面を開く。
私が送る前に、すでに数分前にメッセージが届いていた。
五十嵐 修斗
五十嵐 修斗
『今、会えませんか?』
修斗くんは、不思議。
なんでもない言葉で、いつもいつも、私の感情を一番に振り回してくれる。
一宮 みこ
一宮 みこ
『私も会いたい』

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