雅志先輩とふたりきりで出かけることを考えたら、よく眠れなかった。
初デートは、本当にひどかった。
服装に悩みすぎて、眠れなくて、結果遅刻して。
雅志先輩は、笑って許してくれたけど、そのせいで、観る予定だった映画の時間に間に合わなかった。
次の回で、無事に観ることは出来たけど、眠っていなかったツケがここに回ってきてしまい、
半分ほど観た時点で、爆睡。
しかも、雅志先輩に起こされるまで目覚めなかった。
雅志先輩は、ずっと笑って許してくれたけれど。
最初で最後だったデートには、いい思い出がない。
それは、お互いに。
今回は、先生と生徒として出かけるだけだから、あれほどの緊張感はない。
ハッと気づき、首を振る。
*
支度をして、玄関を出る。
雅志先輩がむかえに行くと言ってくれたから、ここで待機。
ここから徒歩圏内にある神社だと、ひとつしかない。
毎年、正月の初詣は、そこに行くことにしている。
今日は寒い。
ぶるっと震えて、マフラーを巻き直して、ムートンコートの襟を肌に寄せた。
スマホで時間を見る。
五分前。
そう思い、家に戻ろうとした時、一台のスポーツカーが、目の前で停まった。
車の窓が、ゆっくりと開く。
これ以上開かないほどに、目を見開く。
車の中から顔をのぞかせたのは、雅志先輩だった。
車で来るのは少しも想定していなくて、驚いたまま助手席に乗り込んだ。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。