第7話

気まずい授業
10,005
2021/09/18 04:00
そして、あっという間に一週間が経って、また水曜日がやってきた。
放課後になり、部活に行く前の修斗くんが、いつも通りに三年生の教室にたずねてきた。
五十嵐 修斗
五十嵐 修斗
みこ先輩、今日さぁ
一宮 みこ
一宮 みこ
ごめん、修斗くん。私、帰らないと
五十嵐 修斗
五十嵐 修斗
あれっ、今日水曜日?
一宮 みこ
一宮 みこ
そうだよ。授業の日なの
一宮 みこ
一宮 みこ
先週は、部屋で待たせちゃったから、今週からは、せめて私が先に帰らないと
一宮 みこ
一宮 みこ
(先に部屋にいたから、制服を着替えることも出来なかったし)
五十嵐 修斗
五十嵐 修斗
えー、みこ先輩、俺よりも雅志先輩をとるんだー
一宮 みこ
一宮 みこ
変な言い方しないでよ
一宮 みこ
一宮 みこ
さっき、何か言おうとしてたよね。何だった?
五十嵐 修斗
五十嵐 修斗
ん? アイスの割引クーポンがあるから、これでみこ先輩を太らせようと思って
一宮 みこ
一宮 みこ
一言余計なんだけど
一宮 みこ
一宮 みこ
(でも、アイスは食べたい……)
一宮 みこ
一宮 みこ
ねぇ、それ、明日行こうよ
五十嵐 修斗
五十嵐 修斗
残念でしたー。期限今日までだから
一宮 みこ
一宮 みこ
えー?
五十嵐 修斗
五十嵐 修斗
みこ先輩が、雅志先輩を選ぶからですよ
一宮 みこ
一宮 みこ
そうなんだ、残念……
一宮 みこ
一宮 みこ
修斗くん、代わりに誰かと行くの?
五十嵐 修斗
五十嵐 修斗
どうしよっかな
一宮 みこ
一宮 みこ
もう、アイスの話なんかするから、アイス食べたくなっちゃった
一宮 みこ
一宮 みこ
割引がなくてもいいから、今度一緒に行こうね
五十嵐 修斗
五十嵐 修斗
しょうがないな。太る手伝いしてあげます
一宮 みこ
一宮 みこ
本当に可愛くない
修斗くんとの雑談のあと、すぐに家に帰る。
雅志先輩は、まだ来ていない。
制服を着替えて、机に筆記用具を準備する。
一宮 みこ
一宮 みこ
(それと、先週のプリントと、ノート。あとは……)
ママ
みこー、先生いらっしゃったわよ
一宮 みこ
一宮 みこ
!!
階段の下からママに呼ばれ、二階にある自室から、慌ててかけ下りる。
雅志先輩が、靴を脱いで家の中に上がるところだった。
三笠 雅志
三笠 雅志
こんにちは、一宮さん
一宮 みこ
一宮 みこ
(一宮さん……)
一宮 みこ
一宮 みこ
先生、今日もよろしくお願いします
雅志先輩は、先週見た私の得意なところと苦手なところを分析して、新しいプリントを作ってきてくれた。
教え方が上手くて、授業も分かりやすい。

問題がとけると、すごく褒めてくれる。
顔がいいのもそうだけど、こういうところも、生徒になった女の子が好きになってしまうのだろう。
一宮 みこ
一宮 みこ
(授業は、分かりやすくて優しくて、ありがたい)
一宮 みこ
一宮 みこ
(でも、気まずい)
雅志先輩は、ずっと冷静な顔。
一宮 みこ
一宮 みこ
(きっと、私だけなんだろうな)
一宮 みこ
一宮 みこ
(付き合っていた時だって、私ばっかり好きだったし)
一宮 みこ
一宮 みこ
(だから、浮気されたんだろうけど)
一宮 みこ
一宮 みこ
少し上の空でいたら、消しゴムを机の下に落としてしまった。
手を伸ばすと、同時に大きな手が同じ場所に伸びてきた。
一宮 みこ
一宮 みこ
あっ、ご、ごめんなさい……!
三笠 雅志
三笠 雅志
いや、僕の方こそ
パッと手を引いて、うつむく。
こんなことくらいで、ひとりだけ顔を赤くする自分が恥ずかしい。
三笠 雅志
三笠 雅志
それじゃあ、今日はここまで
一宮 みこ
一宮 みこ
はい、ありがとうございました、先生
授業が終わり、時間を確認する。
一宮 みこ
一宮 みこ
(今なら、まだ間に合うかも)
雅志先輩が外に出ようとする後ろを、追いかけるように靴を履く。
ママ
みこ、出かけるの?
一宮 みこ
一宮 みこ
うん、ちょっと
玄関の扉を閉める。

雅志先輩が、驚いたようにこちらを見た。
一宮 みこ
一宮 みこ
あっ、大丈夫ですよ! 雅志先輩のあとを付けようとか、そういうんじゃないんで!
三笠 雅志
三笠 雅志
いや、別にそんなこと思ってないけど
三笠 雅志
三笠 雅志
買い物?
一宮 みこ
一宮 みこ
うーん、そんなところです
三笠 雅志
三笠 雅志
途中まで一緒に行こうか。いい?
一宮 みこ
一宮 みこ
……はい

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