最寄り駅につき、改札口まで急ぐ。
待ち合わせに選んだのは、改札を出て、すぐのところ。
今日は休日ということもあって、人がたくさんいる。
だけど、すぐに分かる。
いつも、隣で見てきたから。
お互いを見つけたのは、ほぼ同時。
久しぶりに顔を見た。
やっと、名前を呼んでくれた。
『だって、俺が来なくなったら、みこ先輩寂しいでしょ』
だから、気づかなかった。
会いたくなって、やっと気がついた。
そばにいることが当たり前で、大切な時間だったことを。
修斗くんが、そばにいる。
すぐそこにいる。
……泣きそう。
修斗くんは、真剣な表情で私を見つめる。
修斗くんの顔が、真っ赤に染まっている。
きっと、私と同じ。
修斗くんは、ハッと息を呑むような、音にならない声を上げる。
それは、私が彼の胸に飛び込んでいったから。
胸に埋めた顔を、上げる。
視線が重なって、修斗くんの瞳に私が映っている。
*
高校を卒業して、今日はひとり暮らしのための、引越しの日。
引越し業者には頼まず、朝から両親と修斗くんが、荷物の運び込みを手伝ってくれた。
段ボールを全て部屋に入れて、ひと休み。
両親が出かけて、狭い部屋には私たちふたりだけ。
ソファーもまだ準備していないから、床に直で座る。
冷たくて気持ちいい。
あの日、マネージャーと一緒にいたのも、部活の買い出しに駆り出されただけだと、誤解も解けた。
両想いになってから、私たちの関係に、進展はない。
卒業式後も大学に入るための準備に追われていて、息付く暇もなかった。
修斗くんは、拗ねるように、唇をムッと結ぶ。
そう言う横顔が愛しくて、手を伸ばす。
修斗くんの肩に手を置いて、頬にキスをした。
驚きで、私を見つめる顔は、真っ赤。
見つめ合って、自然と顔が近づく。
ぶつかったのは、鼻と鼻。
笑い合いながら、手を繋ぐ。
この先の未来にも、隣に君が見えるから。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!